平沼:建築家の役割。どういう風に難波先生はお考えになられていますか。

難波:前にもいったように、住宅の場合、デザインプロセスを通して、お互いの考え方や生き方が変わっていくようなやり取りができたらいいと思います。公共建築の場合は、内部組織の変化に対してフレキシブルに対応できるような空間を作るように努めています。工業化を前提にしているので、自然素材を使う伝統的な職人、たとえば左官職人からは敵視されています。でも、伝統的な技術と工業化技術を統合する方法はあるはずです。もう一つの理由は、左官や障子や畳のように、最初からいいことが分かっている材料は、できるだけ使わないという主義でもあります。それよりも、新しい構法を試みることの方がクリエーションだと考えているからです。

芦澤:今までの文脈的にある良さを使わないということですか。

難波:たとえば、障子のような光の効果を、乳白のポリカーボネート板を使って出すというように、新しい工業化技術によって置き換える試みです。

平沼:新たな価値を見出したいということですかね。

芦澤:例えばですけど、左官とかは、難波先生やられている蓄熱とか、そういう意味で言うと機能的によく働きますよね。

難波:たとえば、レンゾ・ピアノが試みていますが、工場で製作した左官パネルを外壁仕上げに使えば、現場での作業よりもずっと品質のいい仕上げができます。同じ理由で、現場打コンクリートの「箱の家」はほとんどありません。

芦澤:そうですね。

難波:コンクリート住宅については、安藤忠雄以上のものはできないことも一つの理由です。止むを得ずコンクリートを使った「箱の家」が数戸ありますが、外断熱をすれば居住性能も優れています。そのことは実証済みですが、現場打ちという施工法に対しては、依然として抵抗があります。

平沼:難波先生のご自身の個性、どんなところにあると考えられていますか?

難波:個性を消そうとするところでしょうか。徹底的に個性を消せば、逆にそれが個性になる。匿名性といってもいい。誰もが前に出ようとするときに静かにしていれば、一番目立つようなことです。

芦澤:ふーん。はははは。

難波:半分冗談ですが。以前、小林康夫という哲学者にアドバイスされたことがあります。、お前は天才ではなく秀才である。だから秀才なりの方法を考えた方がいい。安藤忠雄が天才である証拠は、色々なことを試みても、結局一つのことしかできないからだ。だから、お前は戦略的に天才のフリをやったらどうか、と。そのことが耳に残っていて、箱と出会ったときに、箱しかできない建築家のフリをしようと決めたのです。

芦澤:装っているわけですか。

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