芦澤:そういう素材を選ぶ選定の基準としては性能、機能性ですか?

難波:性能とメンテナンスフリーとコストのバランスです。

芦澤:コスト。そこには記号性っていうのは?

難波:素地仕上げが記号性のポイントです。ペンキ塗り仕上げはしません。ガルバリウム鋼板はメッキの結晶が見えるので、そのまま表現します。ドブ漬けメッキもそうだし、セメント板も素地仕上げです。インテリアはシナ合板やOSBを素地で使います。床のフローリングやフレキシブルボードも素地仕上げです。

芦澤:プラスターボードはあまりお使いにならない?

難波:使ったことはありません。毎年、日本建築士会連合会作品賞の審査をしていますが、プラスターボード下地AEP仕上げを使う若い建築家があまりにも多いことに辟易します。篠原一男の影響だと思いますが、安易過ぎる仕上げだと思います。構造材をプラスターボードで隠すことにも抵抗があります。「箱の家」の構造デザインは佐々木睦朗だから、構造はすべて表現します。それが彼に対する最低限のリスペクトだと考えています。

芦澤:構造用合板をそのまま見せられて。

難波:そうですね。屋根の梁と構造用合板もすべて素地仕上げです。最近は針葉樹合板だから、自然塗料のオスモカラーで白く染めて木目を抑えています。

平沼:次の質問で、設計されてて問題を感じませんか? って聞いてるんですけど、難波先生って何かに即答で答えを用意されてると思うんですけど、悩まれたりしますか?

難波:しょっちゅう悩んでますよ。でも、表に出すとクライアントに不安を与えてしまうので即答するように努力します。クライアントに対しては、記号性についての説明はできるだけしないように心がけています。1980年代に佐々木睦朗さんと一緒にイギリスの建築家ジェームズ・スターリングにインタビューしたことがあります。ユニークな形態デザインで有名な建築家ですが、彼は機能と構造についてだけ説明し。決して美学的な説明はしないといっていました。

芦澤:クライアントに対してっていう事ですか。

難波:そうです。イギリス社会では、建築デザインの根拠は技術と機能の合理性にあり、美学的な説明は受け入れられないといってました。

芦澤:なるほどなるほど。社会に対してもいわないっていう事ですか?

難波:社会に対してこそいわない。建築家仲間では話題にするかもしれません。

芦澤:なるほど。まぁそうですね。

平沼:あー、なるほどねー。

難波:あれほど造形を駆使したスターリングにしても、そうなのです。ル・コルビジェも、亡くなる直前のインタビューで、自分は視覚的な美を追求するという罪を犯してきたといっています。スイス出身のピューリタンである彼にとっては、美の追求は一種の罪悪だったのですね。1987年生まれで、亡くなったのは1965年だから80歳近い時のインタヴューですが、十分に年齢をとったから、許してほしいといってます。だからこそ、抑えても噴出してくる造形欲が、彼の建築に力を与えたのだと思います。

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