平沼:それでは次をお願いします。

難波:「箱の家」を続けていたら、90年代末に伊東豊雄さんからアルミニウムの「箱の家」をつくってみないかといわれ「住まいとアルミ研究会」に参加することになりました。そこでつくったのが「実験住宅アルミエコハウス」です。それに並行して、伊東さんはK邸というアルミの住宅をつくりました。アルミニウムは鉄以上に熱伝導率が高いので、そのとき平行してデザインしていた「箱の家」21番の熱の問題を徹底して追求したのです。
まず、アルミニウムの構造部材を開発し、骨組が外に出ない納まりを考え、アルミニウムの断熱パネルを開発し、夏の日射制御のために屋根をダブルスキンとし、アルミニウムの熱容量の小ささを考慮するなど、日本中のアルミ工場かに部品を発注し、それらを組み合わせました。プランは中庭を持った一室空間です。屋根が黒いのはソーラーコレクターです。年間平均で5kwくらいの発電量があります。完成後は、居住実験、耐震実験、温熱環境の測定とか、さまざまな実験を行い、6年後に解体と再組立の実験もやりました。それでわかったのは、アルミには時間が刻まれないことです。アルマイト仕上げは耐候性がいいから、海岸でも錆びません。もちろんヒートブリッジの問題も解決できました。最大の問題は遮音性です。断熱パネルはとても軽いので、遮音できない。それでは都市住宅としては難しいので、確認申請ができるよ雨になったアルミニウム骨組みの「箱の家」83番では、重量のある断熱パネルを新たに開発し、その上にアルミ・サイディングを張りました。キッチンカウンターはイタリアの家具メーカーカッシーナCassinaと共同開発しました。これがキッカケでカッシーナの日本工場を設計することになりました。
48番で試みたのは、温熱性能の追求です。プランは三角形で、夫婦だけだから完全な一室空間で、集成材の骨組を断熱パネルで梱包し、屋根を緑化しました。1階は断熱パネルを打ち込んだ鉄筋コンクリート壁造の水回りと駐車場、2階のスラブ上にアクアレイヤーという水袋を敷き込み、深夜電力で温めて昼間に放熱させる。屋根は緑化のダブルスキン。そうすると、室内はほとんど気温の変化のない快適な環境になります。室温が変わらない事が、果たしていいのかという問題はあるでしょう。でも、それが可能な技術を開発したわけです。それをどう使いどう生活するかは、住み手の選択です。窓を開けても1時間くらいは、床や壁の表面温度は変わりません。建物に大きな熱容量があるからです。
このような試みを続ける内に、無印良品から戸建て住宅MUJIHOUSEの開発の仕事が来ました。通常の工業化住宅では、つくり方を提案しますが、住まい方までは提案しない。 ハウスメーカーの場合は、住み手の希望する自由な住まい方ができる構法を開発するというのが売文句です。無印良品はそうではなく、住まい方も一緒に提案する。住まい方の無印良品化が重要なのです。だから、構法や性能だけでなく一室空間的な住まい方も提案しました。これがMUJIHOUSE第1号で、モデルハウスです。庇が浅いのは敷地が狭いからで、90cmの庇が2段着いています。インテリアはすべて無印良品の製品です。僕はシェルターだけを提案しました。2016年現在で、約1200戸ができています。

平沼:では次、素材と工法についてお聞かせください。

難波:メンテナンスに手間のかからない材料として、中空セメント板とガルバリウム鋼板波板を提案しました。現在のMUJIHOUSEの外壁は、ガルバリウム鋼板角波板が標準仕様です。他にも選択肢はあるのですが、ブランド・イメージは変わらないようです。「箱の家」では中空セメント板を使うようにしていますが、コストはガルバリウムの方が安い。セメント板には遮音性と保温性があり、性能的には優れているのですが、コストの点では負けてしまう。

平沼:無印良品で売り出されている価格と「箱の家」の価格は…

難波:かなり違います。MUJIHOUSEでは、中国から合板や集成材を大量に仕入れ、それを工務店に支給しています。「箱の家」も頑張れば同じくらいのコストにはできますが、コストで勝負するつもりはありません。「箱の家」は性能とデザインの面で進化させることをめざしていますから。

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