芦澤:でも、ちょっと箱っぽくない所がありますね。

難波:フラットルーフではなく勾配屋根とすること、既製品のサイディングを使うことが条件でしたからね。ある程度デザインがまとまった時点で、CFDを使って周囲一帯の風のシミュレーションを行いました。シェルター性能の次のテーマは自然換気だったので、この住宅では自然換気用屋根窓の実験をやりました。さらに、日本の杉材の品質を確認するために、軸組には杉の無垢材を使いました。構造デザインは東大農学部の稲山正弘さんです。棟にある屋根窓を開けると、すごい勢いで風が抜けていきます。この実験で、自然通風は下から上に抜けるのではなく、上から抜いて下からひき入れるのが効果的であることがよく分かりました。
次の134番は、僕の大好きなヴァルター・ベンヤミンというドイツの哲学者の専門家である一橋大学文学部の先生の家です。「箱の家」はベンヤミン的だと言われました。小さな家で、延べ面積は27坪くらいですが、レベルの異なる床が5つあります。

芦澤:ちょっとずつ変化を、出していらっしゃいますね。

難波:「箱の家」147番では初めて平屋を試みました。敷地の広さから平屋がいいことはわかっていましたが、問題は工事費でした。でも、クライアントは理解し、頑張ってくれました。間仕切がまったくない一室空間で、風呂にもカーテンがあるだけです。でもすごく楽しく住んでいます。

芦澤:あ、そうですね。

難波:それでも、これは「箱の家」です。

芦澤:はい。ははは。

平沼:はは。

難波:これは秋田に建てた148番です。クライアントは市立図書館の女性司書で、住まいを私設図書館にしたいといわれました。延べ床面積30坪に2万5千冊の本を収納したいという希望だったので、外壁の間柱を本棚の縦枠を兼ねた構造体にして、すべて本棚にしました。だから「本・箱の家」と名付けました。

芦澤:これは、縦材は全部構造体になっているんですか?

難波:見える部材はすべて構造材です。屋根梁は450oピッチのLVL。間柱も同じ450oピッチで、奥行が270oあり、本棚の縦枠になっています。

芦澤:なるほどなるほど。

難波:間柱の外側に張った構造用合板は、そのまま室内仕上げになっています。その外側に120o厚の断熱パネルを張っています。外断熱住宅で有名な能代の西方里見さんに現場監理を頼んだのですが、断熱性能をもっと上げなければ駄目だといわれ、60o厚の断熱パネルを2枚張りました。地方の「箱の家」では、必ず現地の建築家に現場監理を頼み、僕たちは1ヶ月に1度現場に行きます。

芦澤:えぇえぇえぇ。

難波:これは表参道ヒルズのすぐ裏にある「箱の家」の151番です。間口が3mで、斜め屋根です。

芦澤:屋根は何を表すんでしょうか?

難波:斜線制限の結果です。地下1階地上2階建てで、ここは第二種住居専用地域だから5m上がって1.25の北側斜線です。屋根勾配は1対1ですが、屋根窓を作るには、この勾配がちょうどいい。一階は貸店舗です。
今年の1月にできた153番で、これも平屋です。この住宅ではいろいろな試みをしています。基礎スラブから床を上げて、配管のメンテナンスを確保した長期優良住宅仕様としています。床の下地にアクアレイヤーを敷き込み、床下の空間に空調空気を吹き込んで、冷暖房をするという試みです。昨年末に室内環境を実測し、冬季はいい環境が保てることがわかりました。これから夏にかけては、夏季の実測を予定しています。

芦澤:一つの住宅にどれくらい時間をかけられているのですか。

難波:通常の場合は、クライアントに会ってから竣工までが約1年間、長い時は3年間くらいです。時間がかかるのはプログラムの検討と基本設計の段階で、時間はまちまちですが、その段階がもっとも重要です。実施設計が始まってから引渡しまでの時間はほとんど同じです。

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