永山:こちらは、小淵沢のホールで、山梨県の八ヶ岳の麓に建っています。クライアントは化粧品会社でした。マリオ・ベリーニさんが建てた本社を持っているクライアントで、この本社を建てた後に、ここで販売員さんにレクチャーをしたりするホールが欲しいということでした。八ヶ岳の麓には赤松の林がたくさんあるんですが、彼ら曰く、この建物は森の中では彫刻的で、少し男性的なコンクリートでできている。そうではなくて、なるべく森に溶け込むような女性的で優しい建物、そして少し日本的なものを望まれていました。マスタープランを吉村靖孝さんがやっていらして、それで女性の建築家に頼んだらどうですか?と言っていただいて。ちょうど私が臨月の時に社長さんがいらして、出産直後に案を見せてくれみたいな、ちょっとスパルタな状況でしたが、これは是非という規模だったので、やりますと言ってやりました。私は、デザインアーキテクトという立場で竹中工務店と共同でやっているんですけれども、施工も竹中工務店さんがやるというような関係で作っています。それで、昔の建築、寝殿造り的な感じで色々な用途を持った建物を廊で繋ぐような感じの単純な形なんですが、ホールという大きな内容のものを、なるべく森に溶け込ませるために少し分棟にしていくようなやり方をしています。それで、お施主さんがこだわったのが、結構磁北に向けて軸を通して欲しいとか、東入りとか、風水的なことをすごく気にされる方なので、その辺の関係でだいたい位置が決まっていると。ただちょうど、尾根に沿ったような感じで軸を作ることができたので、この高低差によって生まれる風の向きなどを活かしながら作っていきました。で、こんな感じで風が通り抜けていくというのと、景色も見えていくっていうことで、この建物全体的に縦に通る、風道と視線を通す道みたいなものを作っています。それに対して小さなパスみたいなもので、両脇の森が見えるようにするっていう、かなりはっきりした構成を使って全体を構成していきました。で、その隙間に必要諸室がちょっと集落のようにポンポンポンと並んでいるような感じです。それで、平面の説明をしてしまうと、ここが700人のホールなんですけど、こちらが多目的で、2階に300人の多目的室があります。ここに、描かれてないんですけど、道からそれぞれ遊歩道がそのまま縦の廊になるようになっているんですけど、この遊歩道が外部ロビーでそのままホワイエになって抜けているという感じです。ホワイエって結構仰々しく前室のようにあって、その中にホールがあるっていう構成はよくホールに見られると思うんですけど、なるべく森の中に楚々としてあるようなホールを目指すってことで、遊歩道からちょっと入るとホールになっているというような構成を目指しています。それで両側に森に向けて視線を通せるように、ガラスばりの森に抜けて開口のあるホールになっています。それで、ここ全体がレイヤーのように空間を挟んで、緑が見えていくようになっています。ホール上部は天井が高いので、このまま1層なんですけど、中庭を挟んで向かい側の多目的室の棟は2層で、上に300人入る研修室がある。高低差が手前の多目的室のある棟からホールのある棟に向って下がっているので、建物手前の0地点からこう歩いていくと、大体端っこまで行くと5mくらい上がっているんですね。その時の緑の見え方みたいなのも、ちょっと意識しながら作っていっています。それで、2つの遊歩道の別れ道なんですけど、こっち側の道に行くとホールに繋がって、もう一方ははカフェに繋がっています。ちょうど向こうに透けてホールも見えてくると。これが外部ロビーになっているんですけど、外に面したところです。それで、こちらがもう一つの遊歩道から繋がるカフェになっています。結構外装をこう色々と工夫していて、まぁ大きな建物を建てようとすると、どうしても面の大きなものが出てきてしまって、森ってこういう小さな枝と葉っぱとか、小さなものの寄せ集めで出来ているところに、いきなりそのスケールアウトしたような大きな面が出るというのがちょっとすごく違和感があって、森との親和性を考えて、素材を考えて行く時に1つキーワードとして、「肌理を持つ」ということをキーワードにしました。お施主さんが化粧品会社だったので、「お肌の肌理」というように普段使われているボキャブラリーはお施主さんにも通じやすく、賛同してくださって。それぞれに場所や素材を考えていきました。普通のセメント成型板、アスロックを使いながら、例えば特殊塗装を使って、この時テーマとして森をパターン化した森綾模様というのを使ってたんですけど、範囲が1000uくらいあったので簡単な方法でできる塗装方法をいつも特殊塗装をお願いしている中村修平さんと一緒に考えました。保護剤のランデックスコートという仕上げ剤に少し着色料を混ぜ、刷毛で斜めのラインを手のストロークを使って塗っていく方法です。その配合とか、刷毛の幅とかを、中村修平さんと試行錯誤しレシピを決めて、現場に持ち込んで、現場の職人さんに講習をしました。最初は3人の予定が結局は1人の職人さんが1000平米塗ったんですけど。そうすると、手の温もりみたいなものが生まれました。2階の層は、ここ寒冷地なんで、基本的にやはりアスロックのようなセメント成型板、がいいと言われて。全体をアスロックの縦リブ付きのものにしました。二階の開口部は、外側を縦リブのリズムを持った格子に対し、後ろから斜めの材を入れたオリジナルのアルミキャストのシェードで覆いました。さらに上の層になると、ムラのある塗装にして空の雲模様に溶け込むようにしました。それでシェードを、中国のアモイというところで作ったんですけど、すごく難しかったらしく、ロス率70%と言われて、でも結局アルミってもう一回溶かすので、何度も作り直してもらったという、そういうものでした。あとは、そこは赤松の林だったので、間伐材を取っておいて、どこかに使おうということで、ここにストックして、最終的に製材してカフェの天井に使っているんですけども、地産地消的な考え方で使っています。で、これが素材全体なんですけど、これがさっきのアスロックとランデックスの刷毛塗りで、これがリブアスロックにアルミキャストのパネルですね。間伐材を利用したカフェの天井。それで、こういういったホールの席も全部ジャガード織りで、『森綾』模様を作っています。この壁も、この中に吸音板と反射板を交互に並べているんですけど、そういったパネルにしています。あとはランドスケープの考え方がちょっと特殊なんですけど、なるべく自然の中に溶け込むっていうことで、あんまり創り込まれた森を造りたくないなと思ったので、最初は、そのまま元に戻しましょうという話をお施主さんにしたら、お施主さんたち皆、その辺に住んでおられて、見慣れているから嫌だって言われたのですが、見慣れた木々、花々でも、編集し直したら、すごく新鮮に見えてくるかもしれないということで、ランドスケープのコンセプトを『森のカラーパレット』というコンセプトを立てました。例えば赤い花、青い花、ピンクの花、黄色く紅葉する・赤く紅葉する木というのを群舞させることで、印象的な風景をもう一回作ろうということで。例えば、ホールの奥の森は、黄色く紅葉する黄金色の場所にしました。カフェの周りは、紅葉して赤くなるものを使おうとか、それぞれの場所に色を与えていきました。これがちょうど透けて、向こうが見えてくるところです。完成した時にも、ちょっと木々で、少し埋もれていくようにして、ここは、青い花が咲く場所なんですけど、全体的に青を配置して。これがちょうど、外部ロビーに続く遊歩道で、ここが外部ロビーで、段々と高さが、周りとの高さが変わっていって、ここがホワイエです。ちょっと素材で気にしていたのが、外部にそういった色んなカラーパレットを持っているので、室内はそんなに色を持たずに、中にわざとちょっと反射させるような素材を使って、反射する素材のルーバーなんですけど、外の自然を映し込もうと。下もこれは、普通の洗い出しなんですけど、洗い出しの玉砂利をちょっと反射のあるものにして、なるべく色を拾えるようにしようという感じで、なんとなく中に色が写り込んでくるようにしています。ホールの後ろもやはり抜けてますし、前も抜けているという状態で、この時椅子は、ブランドカラーでもあるんですけれども、緑の補色のピンクを入れることで、外の緑が美しく見えるようにしました。これがちょうど、平土間にしたときですね。あの全部、椅子を外すこともできるので。これがもう一つの反対側、ホールの反対側の空間、多目的の空間なんですけれども、結構天井に写りこんでいくので、最初この柱太いな、嫌だなあと思っていたんですけど、天井に映り込むことで細く見えてきます。それで、この強い縦の抜けに対して、横はこういったパスが通って、時々自然が見えてくると。これが、カフェになります。それで、これがさっきの間伐材を使った壁、天井ですね。それで、基本的にはここで使う素材は、日本でとった素材にしようということで、こういった什器の表面に使われている練り付けも、北海道の大雪山の楢だったり、ここでできた赤松だったり。ちょっと床だけはそれが上手く出来なかったんですけど、日本でできたものにしようということで選んでいます。で、これがちょうど夜、少し遠くから見ると、浮かんでいるように見える。外部廊下ですね。あと、2階に上がると、全て開口がこのシェードで覆われていて、何故こうしたかというと、この建物を俯瞰できる視点を消そうと思ったんですね。唯一、ここの階に上がると、全体が見渡せて、向こうにホールがあって、ここに廊下があって、と、全部平面が見えてしまって、日本建築的な空間体験って、自分の居場所を俯瞰できなくて、体験の連続でできているので、なるべく俯瞰できる視点を消すという意味でもシェードにして、向こうのホールの大きなボリュームが見えているんですけど、このシェードがあることで、柔らかくそれを消してくれている。近くの緑が、目立って見えるような状況を作っています。それで、この反対側は銀箔を貼った、ちょっと神聖な空間になっています。

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