西沢 : つまり最近の住宅やマンションは、広義のモダニズムですよね。ハウジングメーカーもそうですが、基本的に冬も夏も同じ生活をする、夜も昼も同じ生活をする、北海道も沖縄も同じ生活をするっていう思想で設計されていますよね。つまり機能主義、もしくは便利主義で設計されています。それをやると、だんだん人工的な密室環境になってくるわけですよね。冬も夏も同じ生活をしようというわけだから。

芦澤 : はい。そうですよね。

西沢 : それをあんまりやりすぎると、最後は人間が病気になってしまうのですね。家の中が余りに人工的になりすぎてしまうと、最後に残った自然の産物であるところの身体も、壊れはじめるということだと思うんです。もちろん前近代の不便な住宅よりは、便利な近代住宅の方がマシです。ただし、あまりに便利主義だけに走ってしまうと、最後は人間が病気になり、住宅たりえなくなっていく。だから自然の取り入れ方というのが、大事だと思うんですよね。
もともと人間の場合、100% の自然環境では、生きられないです。生身の人間は、犬みたいに6年も7年も自然界で生きていけないですよね。つまり人間は、自然100% でも生きられないし、人工100% でも生きられないという、困った生き物なんですよね。だから、自然をどの程度取り入れるかっていうのが、大事だと思うんですよね。

芦澤 : なるほど。すみません。ちょっと、時間が押してますので次へいきますが、周辺環境と建築っていうのを、西沢さんがどういう風に考えられているか。先ほどの砥用町林業総合センターでも山に合わせるとか、ありましたけど、

西沢 : そのときどきで、周辺で重視するものが違います。距離空間とは必ずしも関係ないというか、ものすごく遠くの山が大事になったり、見えない風向きなりが大事だったり、ケースバイケースですね。

芦澤 : なるほど。次の作品です。

西沢 : これは壁厚を厚くし始めた最初のころの、7年前くらいの作品です。

平沼 : 壁厚にディテールはありますか。

西沢 : これは壁厚が450oくらいです。敷地の通風状態我欲なかったので、なんとか風が流れるような壁ができないかと考えて設計してました。

平沼 : 厚い理由は空気層なのですね。

西沢 : そうですね。壁の内部に通風層が150mmあります。通風層は浅くて背の高い吹き抜け空間のようになっていて、それが住宅をぐるっと包んでいます。

芦澤 : やっぱりこれくらいの壁厚というか、空気層が必要だったってことですか?

西沢 : もともと敷地の通風状態がとても悪かったんですね。現地で風の通り道を調べたところ、場所によってはかろうじて風が流れていることがわかりました。隣家通しの間とか、隣家の屋根の上付近とかです。それで屋外にたいしては、風の通り道を狙って窓を段々状に設けることにして、屋内にたいしては、全ての部屋を通風層でぐるっと取り巻くようにして、通風層を介して自然換気をできるようにしました。
プランは十文字プランで、ワンフロアに4部屋ありますが、それらがすべて角部屋で、必ず2面で通風層に面するようにしています。通風層の屋外側の段々状の窓は,屋内からオペレーターで開けられるようになっています。窓を開けると、屋内の空気がふわっと動くようになっています。

芦澤 : ということは、必ずしもこの開口は眺望を得るための開口ではなくて、

西沢 : じゃないですね。風、原理主義ですね。

平沼 : 自然通風ですか?

西沢 : ええ。

平沼 : スライドの写真の中にある開口部で、クレセントの位置が高くみえるのですが、どれくらい高いのですか?

西沢 : あのクレセントは使わないんですが、クレセントなしだとメーカーがサッシを売ってくれないので。開閉は、基本的には全部オペレーターです。家族構成はお二人で、息子さんが50歳くらい、お母さんが80歳くらいなんですけど、各階一人づつで住みます。この十文字のセンターが回転ドアになってて、換気を妨げないようにしているというわけです。

芦澤 : なるほど。直接外が見れる窓っていうのは設けてないってことですか。

西沢 : なにしろ回りが3階建ての商業地なので、ほとんど眺望がないんですよね。都内の狭小地なので。屋上からは見えるようにしたことと、あとは少しだけ庭があるので、そこからは見えますね。眺望は断念せざるを得ない環境でした。

平沼 : 天井の素材はなんですか?

西沢 : FRPです。安い素材ですけれども。
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