芦澤 : はい。ではここでちょっと、
平沼 : あ、ちょっと待ってください!1つだけお聞きしたいことがあるのです!この写真の中です。
西沢 : はい。笑
平沼 : この天井は吊ってるだけですか?
西沢 : 模型写真なのでちょっとわかりにくかったですね。この天井フトコロには、構造のトラスがあります。スパンは10mです。その下弦材には3.3mごとにふれ止め材があって、それがルーバー材の下地になっています。
平沼 : フロア面から透けて見えるのですか?
西沢 : 見えます。あと、フロア間をエスカレーターやエレベーターで移動するときにも見えます。
芦澤 : これ、よく許してくれたなぁというか、許してくれたというと少し御幣がありますが、
西沢 : これはコンペで通った提案なので、基本的なアイデアの方向についてはすでに了解済みなんですね。ただ、その後のフィージビリティスタディはがっちりやりました。ツタの生育実験も2年間くらいやりましたし、空調のイニシャルコストとランニングコストのシュミレーションや、維持管理のシュミレーションなど、一通りのことはやりました。
芦澤 : そうですか。
西沢 : この空間の良し悪しについては、反対される部長さんもいましたけどね、それをひとつひとつ説得しながら設計して行くわけです。
平沼 : さっきの駿府の教会もそうですけど、大良さんって、懐の使い方がすごく特別じゃないですか。これは何かの意図があるのですか?
西沢 : それはですね、僕の考えでは、だいたい「建築」っていうのは上にあると思うんですよね。上が盛り上がってるのが「建築」なんですよ。
芦澤 : すごい含蓄ありますよね。
西沢 : たとえば日本建築って屋根建築でしょう。
芦澤 : あー!
西沢 : 床なんかたいしておもしろくないけれど、上はすごいことになってます。これ、日本建築だけじゃないですよ。ゴチックとかもそうです。ゴチックも上はすごいことになってます。あるいはクラシシズムもそうです。そもそもゴチックとクラシシズムの違いは、上にありますから。ブルネレスキのデルフィオーレはドームが勝負だったわけで、クラシシズムは上から始まったと言えるくらいなんですね。あるいは、イスラム建築だって、上はすごいことになってます。天井の入隅なんてものすごい幾何学になっている。
芦澤 : はい。
西沢 : だから世界史的な事実として、「建築」なるものは上の方にあるのです。こんな話は今の歴史家はどなたも論じておりませんが、事実としてそうなのです。これは本来、教科書に極太ゴチック体で記されるべきポイントだと思うんですけどね。
芦澤 : なるほど。そこがないと空間になっていかないっていうことですかね。
西沢 : まぁそうですね。
芦澤 : さきほど、kokueikanのプロジェクトでも、自然に勝たないと、自然に負けてられないっていうお話をされてましたけど、建築を自然の関係っていうのは、どのように考えていますか?
西沢 : いや、さすがにですね、東日本大震災とかを見ると、こりゃガチンコでぶつかったら勝てないなぁと思うので、迂回しながら勝つ方法を見つけるしかないと思うんですけどね。逃げまくって勝つ、あるいはイナしまくって勝つしかないと思うんですけども。
ただ、建築の唯一の競争相手は自然界だということは、間違いないと思うんです。つまり、自然界の中で、人間は放っておいたら2週間くらいで死んでしまうでしょう。犬とか馬とかそういう連中は、6年も7年も生きてるのに、人間は2、3週間で死んでしまう。だから建築なり都市なりが必要なわけでしょう。どんな地方のどんなに建物でも、例えば雨をよけるために屋根をするとか、床がぬかるまないように高床にするとか、暑さをよけるために通風をよくする等々のことをしていますよね。それが建築ですよね。
芦澤 : なるほど。
西沢 : その意味で、建築の唯一の競争相手は、自然界だと思うんです。極端な言い方をすれば、人間は自然界の成すがままで死滅していくのか、建築なり都市なりの中で生き残るかっていう競争をしているわけです。もちろん生き残るって言ったって、天寿を全うして、生き変わり死に変わりして生存していくっていうことですけれど、そこにしか建築の存在意義は無いと思います。これも将来的には、教科書に極太ゴチック体で記されるべきポイントになっていると思います。
今の普通の常識によると、たとえばアートと建築がライバルだとか、いやヴァーチャルと建築がライバルと言われていますけど、僕はそうは思わないですね。アートというのは生存が確立されたあとの備品のようなもので、自然界と対抗するっていうレベルにないです。僕もアートで好きなものありますけれど、ことこの話に関しては、自然と競合できるレベルにあるのは建築と都市、つまり建築家や土木設計者がやっていることだけだと思います。ヴァーチャルもそうです。それは生存の後の話であって、生存に関われるのは建築だけです。これは過去100年くらいほとんど忘却されていたことですが、大事なことだと思うんですね。
芦澤 : なるほど。どうですか、平沼さん。
平沼 : 僕、もう少し、西沢さんの建築のつくり方を知りたいです。 |