平沼 : もともとボリュームに条件はあったんですか?

西沢 : 面積は決められていました。林野庁の予算上の面積です。この施設は100%林野庁の助成金なので、コンマ1u足りとも動かせないですね。

芦澤 : 外形に関しては、こういうとこ四角くバシーンといって、そういうところは何かあるんでしょうか。

西沢 : それはやっぱり予算が厳しかったからです。外回りをいじるとお金がかかるでしょう。沖縄kokueikanくらいの工事単価になってくると、曲面の外壁もできるのですが、この体育館の場合は、もう倉庫並みの単価ですからね。直方体でもぎりぎり立つか立たないかという予算です。

芦澤 : それでよくここまでできますよね。

西沢 : そうですよねぇ。笑
僕はわりと単価の少ない仕事って嫌いではないんです。こちらの先入観を破壊してくれるから。それに、この仕事の場合は、別の意味でもがんばらざるを得ないところがありました。コミッショナーの伊東豊雄さんのプレッシャーがあったから。笑

芦澤 : なるほど。

西沢 : こういう話はあまりしてはいけないのかもしれないけれど、当時は熊本県内でアートプロジェクト事業がまずい状態で、県の知事も反対しておられたし、磯崎さんの後に伊東さんがコミッショナーになったとは言っても、しばらく公衆トイレくらいしかアートポリス事業にならなくて、自然消滅しそうになっていました。そういうさなかに、久しぶりに居室のあるこのプロジェクトが出て、僕が設計者に特命されました。伊東さんからは一言、「頼んだぞ」って言われただけなんですが、それしか言わないんですよね…だから自分はいったい何を頼まれたんだろうって、なんか怖いこと言うなぁって、淡い恐怖を感じながら設計してました。笑
少なくとも予算を言い訳にはできる状況にはなかったです。

平沼 : 構造設計もそうですけど、経済設計もかなり考えられていますよね?

西沢 : そうですね。やっぱり実現したいから。実現するためにコストのアイデアが必要であれば、それも考えます。この場合のコストのアイデアを言うと、コンクリートを一切使わない、ということですね。下部構造にコンクリートを使うと、土工事が発生するし、お金がかかってしまう。しかもこういう木造平屋建て(一部2階建て)の建物の場合、コンクリートの下部構造の方が、木の上部構造よりも重くなってしまうから、コストバランスも悪くなるし、木の良さ(軽くて強いこと)も発揮できなくなる。だからコンクリートは1?たりとも使いませんと、初期段階で決めました。敷地が造成地なので、体育館を建てるには杭が必要なのですが、杭もコンクリートではなく鋼管杭にして、基礎もコンクリートではなく重量鉄骨にして、床下の土間コンもなくして防湿シートと砂利で湿気をおさえています。ですからこの建物は、下部構造を含めて、スチールと木だけでできています。
ただ、それを実現しようとすると、いきなり基準法に違反することになるし、林野庁の前例もないので、ずいぶん抵抗されました。でも基準法については、構造を評定で通せば問題ないです。また前例主義についても、木以外のところに予算を浪費してきた前例の方が間違っているのではないですかと、反論される方々に説明しました。だいぶ会議で吊るし上げられましたけど、冷静に考えればこちらの主張の方が正しいので、最終的には認めざるを得ないです。だいたい前例主義なんてものに従っていたら、いまだに人間は竪穴式住居に住んでいなくてはならないみたいなことになりますからね。悪しき前例は正した方がいいのです。今後はこの建物のように下部構造を扱っていけば、今までよりも木を多用できますしね。そういうことにこそ税金を使うべきだと思います。

芦澤 : そのへんのコストコントロールは設計段階でやられるんですか?

西沢 : そんなに細かく計算するわけじゃないですけど、直感的に気づくことってありますよね。わりと初期の段階で、ずいぶん予算が少ないなあ、しかも造成地かあ、地盤データも良くないな、ということがわかった段階で、下部構造にコンクリートを使うとどうなるか、想像できますよね。コンクリート工事と土工事に何千万くらい出ていくか、おおざっぱにわかります。そうすると、もしそれを使わないで済むとなれば、ずいぶん良いことがあるなって、気づきますよね。この杭は鋼管回転圧入なので、土工事の発生量が本当に0?なんですよね。そうなると、何百万は木工事に回せるなと。木工事の制作単価をあげられるなとか、仕上げにもこんないいものが使えるなとか、外装に強化ガラスも使えるじゃないか、とかなってくるわけです。

芦澤 : なるほど。笑

西沢 : もちろん、構造事務所や設備事務所に全面的に協力してもらわないと、できないことです。

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