2 1 7[ nie - ichi - nana ] 第8回

日 時 : 2011年 9月 16日 PM 7:00〜
会 場 : インターオフィス大阪支店 / ショウルーム

ゲスト : 西沢大良
対 談: 芦澤竜一 平沼孝啓

芦澤 : こんばんは。芦澤です。今日は東京から西沢大良さんにお越しいただいてお話を伺っていきます。

平沼 : 実はさきほど、西沢大良さんにはじめてお会いさせていただいたのですが、以前からずっと僕はすごく楽しみにしていたのです。なぜかと言うと、いままでつくられた作品を見させていただいていて、とても建築のつくり方に独特な感性を感じていました。そして例えば、乾さんらとお話ししていてもそうですし、建築家の多くのみなさんが仰る。日本の建築家の中で、大良さんほど建築を建築らしくつくっている建築家は珍しいって。僕たちは大良さんよりひとつ下の世代なのですが、国内だけじゃなくて世界的にも、とても注目していくべき先輩・建築家のひとりです。だから今日、お会いできて本当に嬉しいなっていう気持ちと、大良さんがどんな風に建築をつくられているのかを、ひとつずつ、直接ご本人からお聞きできることを、楽しみにしていたのです。今夜は、西沢さんが建築をつくる、そのつくり方の詳しい部分をお聞きしたいと思っていますので、ぜひご期待ください。

芦澤 : 建築の思考がね、非常に深いと思うんですよね、生意気なことを言うようですが。そういう意味で、本日も盛り上がると思います。では、西沢大良さん、よろしくお願いいたします。

西沢 : こんばんは。

芦澤 : まずは、簡単に西沢さんのご紹介をさせていただきます。1964年東京生まれで、現在は東京理科大学、日本大学大学院、YGSA、日本女子大学の非常勤講師をされています。主な作品には、長野県の諏訪のハウスですとか、沖縄kokueikan、砥用町林業総合センター、静岡の駿府教会がございます。最近は本も出されたと伺っていまして、その辺のご紹介も後であると思うんですけど、まずは、西沢さんから自己紹介をお願いいたします。

西沢 : はい。いまほとんど必要なことは言われてしまったので、付け加えることはあまりないのですが、強いて言いますと、けっこう建築オタクですね。それから、ワーカホリックです。

芦澤 : どれくらいオタクですか?

西沢 : どれくらいかと言うと、世の中で起こることは全部建築のせいだって思ってしまうようなオタクです。例えば先週大きな台風が来まして、熊野古道が流されてしまったと聞くと、それは建築のせいではないのかと。

芦澤 : なるほどなるほど。

西沢 : あるいは、今年の3月に福島で原子力発電所が放射能を出しましたって聞くと、それは建築や都市のせいではないのかと。

芦澤 : なるほど。

西沢 : 最近ひきこもりが増えてきましたっていったら、それも建築のせいに違いないと。

芦澤 : はい、なるほど。

西沢 : 全部建築に結びつけてしまうんですよね。きみそれしか分析できないのっていうくらい、建築のことを考えてしまってね。

芦澤 : なるほど。全部そこに向かっていく思考になってるんですね。

西沢 : それしか回路がないんだね。笑

芦澤 : ワーカホリックはどの程度、どのくらいひどいんでしょうか。

西沢 : それは、ぎりぎり離婚されないくらいです。笑

平沼 : 離婚されないくらい。笑

西沢 : ええ。だいたい建築家って、2通りいると思うんですよね。ひとつは、たくさんの仕事を同時に動かしていく、仕事の数が多ければ多いほどノッてくるという、いわばプロデューサー型。もうひとつは、少ないことを深くやる、仕事が少なければ少ないほど面白くなるという、いわば職人型。僕は明らかに後者のタイプでして…質問なんでしたっけ?

芦澤 : どの程度ワーカホリックか、ですね。離婚されない程度と。笑

西沢 : そうでした。例えばエスキス始めると、止まらないんですよね。食事もしなくなるし、眠らなくなるし、電話も出なくなる。文章書くときとかもそうです。事務所で椅子に座ってさあ文章書くぞってなると、ふと気付くと3日たっていたりする。笑

平沼 : す、すごいですね。笑

芦澤 : あまりご自宅には帰られないですか。

西沢 : いや、なるべく帰りますよ。

平沼 : それは、いつ頃からですか。入江さんのところに行かれてからですか。

西沢 : 子供のときからそういう没頭癖があったんですけど、それが治癒し難いレベルに達したのは、所員時代ですかね。25歳くらいかな。

平沼 : そうですか。

西沢 : ちょうど仕事を覚えて、おもしろくなった頃です。建築の仕事って、最初は全貌がわからないから、現場についていくことだけで必死だけれど、数年経って一通りのことがわかってくると、構造や設備のアイデアも出せるようになるし、工務店やメーカーとの交渉もできるし、予算の動かし方もわかるし、施主との交渉もできるようになりますよね。そうなると仕事がおもしろくなってくる。それが僕の場合は25歳くらいでした。その頃から本当に家に帰らなくなってしまった。

平沼 : なるほど。笑

芦澤 : 途中でというか、ちょっとこう飽きることとかありませんでしたか?仕事に対してとか、建築に対して。

西沢 : ぼくは飽きる才能ないんですよね。どうしても没頭してしまう。

芦澤 : そうですか。ずーっと建築というかんじですか。

西沢 : もちろん表面的にはニュースを聞いたりレストランに行ったりしてるんですけれど、頭の中は建築なんですね…もともと昔から没頭癖があって、たとえば中校生くらいのときに、小説を読んだりするでしょう。まだ小説界の全貌がわからなくても、この作家はおもしろいと思うと、その人のものを端から端まで食い尽くすように読んでしまう。それで食い尽くすと、いきなり興味がなくなる。音楽や美術なんかもそうやって食い尽くしてしまった。

芦澤 : なるほど。

西沢 : ただ建築だけはちょっと深かったというか、広かったというか、食い尽そうとしているうちに、もう何十年も経ってしまったんですね。

芦澤 : ちなみに音楽は、どんな音楽ですか。

西沢 : 音楽はだいたい全部聴きました。小学生くらいまではクラシックでしたけど、中学くらいになると、僕らの頃はロックですよね。70年代の中頃が中学生なので、今はみなさん聞かれないと思いますけど、まだツェッペリンもいましたし、ジェフベックもよく来日していたし、クリムゾンもいたし、ジョンレノンも生きていた。でもそんなあたりは4、5ヶ月で聞き尽くしてしまう。となると次はジャズですね。マイルスもまだまだ現役だったし、オーネットも何度目かのピークだったし、ジャコも売り出し中でした。そんなのも数ヶ月で食い尽くす、みたいな感じですね。

芦澤 : なるほど。

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