西沢 : 少し光以外の話もしますと、外観についてもあちこちに建築オタク的なことがあるんですけれど、ひとつだけ言うと、この門扉の配置は非常にオタッキーです。

芦澤 : エントランスですね。

西沢 : ええ、エントランスの門扉です。敷地が角地なので、エントランスを2面道路のどこかに設けることになるわけです。つまり、そのどこにエントランスを置くべきかという設問があるわけです。この建物はプロテスタントの教会なので、プロテスタントの教会っていうのはわりと、北米でもドイツでも北欧でも、街の集会所みたいに使われている施設で、駿府教会もそういう使われ方をします。ドイツや北欧では、街の広場からダイレクトに教会に入れるようになっていますから、なるべく街の広場から入れたいわけです。ただし、この2面道路沿いには広場がない。とはいえ、相対的に広場的な場所があることはある。交差点のスクエアー部分です。だからそこから礼拝堂に入れようと考えて、道路の隅切り部分に門扉を配置しているんです。隅切りの縁石の真上に門扉がびっちりくるようになっています。

芦澤 : はー、なるほど。

西沢 : 写真でおわかりになりますかね。いわゆる道路の隅切り部分ってありますよね。道路のコーナーが45度に隅切りされている部分です。そこの縁石に門扉がバシッと合っているわけなんです。ここが唯一、広場的な屋外から教会に入ったことになりうる場所なんですね。他のところに門扉を置いてしまったら、たんに道路から入ったことにしかならないです。これはヒジョーに重要ですね。

芦澤 : そうですか。笑

西沢 : 重要ですねぇ。笑
つまり、澄み切り部に入り口があって、街のスクエアーから入るような施設で、その門扉にガラリア地方の葡萄のツタが装飾としてあしらってあれば、それはもうプロテスタントの教会であると認めざるを得ないですからね。まぁ、そういう「キッチリしい」なところがオタクなんですよね。

平沼 : すごい。笑

芦澤 : かなりでも、教会建築だとどうしてもそうなるのかもしれませんけど、相当閉鎖的なつくりだなと思ったんです。

西沢 : それはやっぱり線路の騒音の問題があったからですね。2両くらいの路面電車みたいなものなのですが、踏み切りの「ガタッガタッ」っていう音とか、「カーンカーン」っていう警報音があります。設計中に騒音測定を敷地でやりましたが、木はけっこう遮音が難しいので、とにかく開口はなくそうと。

芦澤 : なるほど。

西沢 : 幸い線路側が北面ですしね、トップライトで光を入れようと。

芦澤 : なるほど。では、ちょっと内部の写真にいきましょうか。

平沼 : あっ、すごい。内部は光の影響が違いますね。

西沢 : (スライドを見ながら)中はこういう感じですね。礼拝堂の内壁は、パイン材を張っています。壁の厚みが760mmあるのですが、表面は板張りで、だんだん床から天井方向に、板幅がだんだん小さくしています。細かく説明しますと、基本的に床付近のいちばん板幅があるところが板巾90mmです。90mmの板巾にたいして、隙間が1mmです。その上の板になると板巾が89mmになって、隙間が2mmになります。

芦澤・平沼 : 笑

西沢 : その次は板巾88mmになって、隙間が3mmになると。

平沼 : はいはい。笑

西沢 : それをずーっと上までだんだんやっていくと、板幅がだんだん落ちてきて、隙間がだんだん増えてくる。最後は板巾14mmになります。それを下から見ると、糸みたいな細さに見えます。すると、ガーゼ越しのやわらかい透過光みたいな光の効果になるわけです。糸みたいに細い物体は、材木であっても糸みたいな効果を出すというわけですね。

芦澤 : 大工さん泣きませんでしたか。

西沢 : 口を利いてくれなくなりました。笑

芦澤 : ですよね。笑

西沢 : あいつが来てるときは、俺は現場には来ないって言われてしまって。俺をとるのかあいつをとるのかみたいな、すごい話になってしまった。笑

平沼 : すごいですね。笑

西沢 : でも、ものすごく優秀な大工さんなんですよね。素晴らしい腕です。だからその人の腕はどうしても必要で、最後は図面にメッセージを書いて現場に残してきて、顔を合わせずに筆談みたいにして監理をすることになりました。笑

芦澤 : これ、パネルは縦で分かれてますけど、横は同じ寸法ですか?

西沢 : 同じです。この壁は光だけではなくて、音の問題も処理しています。残響音のコントロールです。全体的に見ると、要するに下の方は、反響板の役割もしているのですね。上の方は、ルーバー状の板の隙間から後ろに音を逃がして吸音しています。これぐらいの気積のある木のワンルームは、何もしないと銭湯みたいに音が響きすぎてしまって、牧師さんが何を言ってるのか聞き取れなくなってしまう。カソリックの礼拝堂であればそれでもOKなんですけどね。もともとカソリックの教会は、ゴチックでもクラシシズムでも、民衆の話し言葉とは違う外国語で聖書を読んでいたから、信者にとっては何を言ってるかわからないけどありがたいお言葉だというのでOKだったんですね。でもプロテスタントはそうじゃないので、聖書の言葉を聞き取ることが大事なのですね。

芦澤 : なるほど。

西沢 : というわけで、内部は音響時間もコントロールしてます。満席時に1.0秒くらい、空席時に1.3秒くらいに抑えています。

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