平沼 : これくらいの天井高にした理由って、何かあったのですか?

西沢 : たしかに天井高は7.6mくらいですけれど、僕としてはそんなに高くないと思っています。だいたい僕が教会に通っていた実感としても、礼拝堂ならそれくらいあっても全く問題ないっていうのがわかっていました。それに、もともと僕は天井高にうるさい人なんですよね。住宅を設計するときも、うちの事務所では、ミニマムの天井高が3.2mにしています。それは人間が立ったときのことを考えると、最低でも3.2m必要だろうと思っているからですけどね。つまり、立ち上がったときの人間の目線の高さは、だいたい床から1.5〜1.6mくらいなので、天井高を3.2mにすれば、立ち上がってもまだ下半分にしか達していないことになるわけですね。

芦澤 : はい。

西沢 : これ重要。笑

芦澤 : はい。笑

西沢 : 2.8mとかはあんまり意味ないって思うんです。「我が社のマンションは2. 9mですよ!うちは!」みたいなのね、ぜんぜん意味ないです。真実は、3.2mから先が勝負です。

芦澤 : なるほどなるほど。笑

西沢 : 昔の和室の天井高は2.1m、あるいは2.4mですね。つまり7尺ないし8尺でした。それが基準法の基準になったわけですが、ただ昔の人は、和室の中で絶対に直立しなかったんですよね。うちの祖母もそうでしたけど、座敷ではザグって移動するか、膝をついて移動するんですね。絶対に立り上がらない。すると視線がすごく低くて、床から80cmとか、90cmなので、これはやっぱり下半分にしか達していないんですね。そういう作法と一体のものとして、天井高2.1mというのが意味をもっていたんですけど、そこにイス式の洋式の生活をはじめてしまったために、いきなり天高2.1mというのが無意味な産物になってしまったのですね。本当は、生活をイス式に切り替えたときに、天井も高くしないといけなかったんですね。

平沼 : なるほど。笑

芦澤 : 天井はけっこう、トラスが、構造体が見えるんですね。あえて見せてるんですか。

西沢 : というよりも、まず普通に礼拝をしているときにどうかということが大事ですよね。普通に礼拝をしておれば、星空を見るように真上を見上げる人はいないので、天井はそんなに視界に入らないです。部屋の平面の大きさにあわせて天井高を決めているので。

芦澤 : なるほど。

西沢 : それで、壁の背後のトラスについては、光によって現れ方が変わったらいいのではないかと思ったんですね。もともとプロテスタントの礼拝というのは、日曜の午前中の2時間です。必ず2時間、槍が降っても、雪が降っても、世界共通で日曜の昼までの2時間です。それって面白いことだと思うんですよね。笑

芦澤 : はい。笑

西沢 : その2時間にばっちりあわせた空間をつくれたら、これぞプロテスタントの礼拝堂だっていうものができますからね。

芦澤 : なるほど。

西沢 : なので、光がこの10時から12時の間に、どこを照らすか,明るくするかっていうことをスタディして、トップライトの大きさや位置をスタディしました。礼拝が始まるときは、さきほどの壁のパイン材の表面の方が明るいです。でも正午くらいから後は、壁の背後のトラス材の方が明るくなるようにしています。すると、礼拝が終わった時間になると、壁の向こうからトラス材が蜃気楼のように現れることになるわけですね。

芦澤 : 上昇していくかんじですか。

西沢 : そうですね。壁の背後にストラクチャーがわーっと見えるようになります。礼拝が始まる前は、信者さんにとってはそんなに気づかれないように、壁よりも暗めになっています。

芦澤 : そういうシュミレーションは、設計段階では、どういう方法でやられるんですか?

西沢 : 模型を使って照度実験をします。静岡市の太陽の仰角と方位は理科年表とかに出ていますから、照明を太陽に見立てて、1時間ごとの太陽の位置を動かして、模型写真をとります。それで、こっちの模型のトップライトの大きさや位置だとどうなるかといったことを、延々とスタディします。

芦澤 : はい。では次に、沖縄kokueikanです。これは沖縄のコンペですよね。

西沢 : そうですね。コンペはもう5年前になります。それで3年以上設計してけっきょくはペンディングになっちゃったんですが、建物内容は沖縄の商業施設です。那覇市の国際通りというショッピング街の中心に、Kokueikanという古い映画館があったんですが、それを取り壊して商業テナントビルをつくるというコンペでした。僕が提案したのは、どの階高も10mにして、各フロアの大きさをなるべく大きくして、階数をなるべく少なくするというアイデアで…

芦澤 : 10mっていったら相当ですよね。

西沢 : でもまあ、デパートの1階とかは階高けっこうあるでしょう。三越とか高島屋とかは10mくらいある。そんなものに負けるわけにはいかないでしょう。

平沼 : はい。笑

西沢 : それで、基本的に階高をなるべく高くして、階数をなるべく少なくして、各フロアの大きさをなるべく大きくする。階数を少なくしようとしたのは、ショップのテナントビルだからです。ショップのテナントビルは、銀座でさえ4階は空室になっていますよね。それなのに、沖縄で5階や6階にテナントが入るわけがないので、階数を少なくした方がいいと考えたわけです。そのかわり、各フロアをマックスに大きくして、階高を高くします。そうすると天井高があまるので、上半分を自然を感じられるようにして、下半分は普通のテナントの内装用につかってもらうという提案ですね。
少し写真を見ながらご説明していきますと、全体的には、地下1階の地上3階です。若干ロフト階もありますけど、基本的には地上3階です。高さは全部で30mです。それで、どのフロアも気積のだいたい真ん中部分に、ルーバー天井があります。その下は普通にテナントさんに内装をやってもらうんですね。ただし天井だけはルーバーで、その上の天井裏に当たる部分が高さ4mくらいの共有スペースになります。外壁も、ルーバーの高さまでが壁で、その上はサッシというかガラスです。これが平面的にも建物をぐるっと一周するようになってます。それで、この外壁サッシ面の60cm外側にメッシュ面をつくって、ツタを生やします。プランターが高さ5mピッチで置いてあって、緑で全体を覆うようにします。それを屋内側から見ると、ルーバー天井の上空にツタの緑が見えて、光も感じられて、中間期は自然風も採り入れるようにします。空調は床吹き出しで、季節によっては自然通風とミキシングします。そうすると、ちょうど公園の木漏れ日の中で、ショッピングしたり、食事をしているような、そういう商業ビルができると。これが基本的なアイデアですね。

芦澤 : なるほど。

西沢 : ちょうど国際通りっていう前面通りがありまして、そっち向きが北面なので、建物の半分はツタで覆いまして、南側はちょっとツタが旺盛に伸びすぎてしまうので、実施設計では部分的に木ルーバーにしました。

芦澤 : なるほど。

西沢 : この写真はプロポーザルのときの、コンセプトを示した写真です。公園の写真ですね。公園の木陰あるいは、緑の中で、休憩したり、買い物したり、食事したり、催し物をしてる写真です。これはアクティビティとしては普通のテナントビルのなかでやってることと同じなんですね。そこで、もし同じことをビルのなかでやっている状態と、公園の中で買い物したり食事をしたり催し物をしている状態を比べると、明らかに公園の中の方が気持ちいいわけですよね。それはケンチクオタクとして言えば、非常に忸怩(じくじ)たるものがあります。なにしろ建築が自然に敗北しているわけですからね。

平沼 : 敗北ですか。笑

西沢 : うん、敗北。笑
なにしろおんなじ空間ですからね。自然のつくった空間に敗北するわけにはいかないと思うんですよね。自然の方がいいってことになってしまったら、建築なんていらないよってことになってしまうから。

芦澤 : はい。

西沢 : 特に沖縄の自然は、素晴らしいんですよ。まず日陰がものすごく気持ちいいし、風もものすごく気持ちいいです。あるいは空の青さ、緑の強さ、海の広さ等々,どれをとっても素晴らしいです。沖縄に行ったことのある方は、沖縄の自然の気持ち良さを一生忘れないと思うんです。だけど、沖縄のビルで何か覚えていますかって聞いたら、誰も何も覚えてないですよ。もう明らかに建築は敗北しているわけです。沖縄では、建築は便利だから行くにすぎないんで、気持ちがいいから行くっていうものじゃないんですね。これはなんとかしなくちゃいけないんで、なるべく自然の力もお借りしながら、沖縄でしかできない商業施設をつくろうと考えたわけです。

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