家成:
今から紹介するのが、「NO.00(ナンバーゼロゼロ)」という住宅なんですが、これは兵庫県西宮市の甲東園というところにあります。南側は神社、西側は道路を隔てて二階建ての住宅、北側は大きな住宅なんですけど、南側に大きな駐車場があるので、割とひらけています。東側は畑で、周囲は割とぐるりと環境の良い場所です。「NO.00」の最初に何をしようとしたかと言うと、スタディの最初期にコンセプトをたてようとする訳です。それから敷地法規等からボリュームを切り出してかたちを考えようと、必死に3人でやっていた訳なんですけど、スタイロフォームをヒートカッターで切り出すような仕事をずっとやり続けていても、どこかで不毛な感じがしてきて、もう少しきちんと考えようと。そもそもコンセプトとは、物事や出来事の差異を省き、物事や出来事に共通する大要、要約、イメージなんですが、この中に差異を省くということにピンとこない。むしろ、差異を省くのではなく、積極的に取り込み、立ち上げる方法がないかと。それで、さっき芦澤さんが仰ったように、事務所を3人でやっていて、複数で運営して複数で活動していることの意味を、この時期に3人で結構話し合いました。それで、この住宅「NO.00」というのは、図面は一つの住宅なので当然一式で、設計は3人でやっています。施工は工務店と、僕らも施工を一部引き受けるところがあります。その3人の差異や、特殊性、特異性みたいなものを、積極的にこの住宅に落とし込めないかなということで、超並列という設計プロセスをここで思いつく訳です。それが、設計をあえて図面と模型と詳細図に分けようということです。図面は常に1/50で書いていく。
大東:
図面というか、プランですね。
家成:
模型は一番最初、1/100でぱらぱらつくりながら、3人で共通の認識はするのですが、以降は大体1/30で常に進んでいく。詳細図は、1/10から1/5、あるいは1/3というスケールで進んでいく。この3つを、最初にすごく基本的なところを3人で話し合った後、持ち帰って、ばらばらに進めていくという手法をとりました。ばらばらに進めていくと、当然、途中で3人で合算してみると、まだ全然建築になっていないので、その状況をまたフィードバックして持ち帰って、さらに進めていく。あるとき、僕が図面を見て模型をつくって、模型を見て詳細図を書いていたのが、あるときには模型を見て図面を書いているとか、詳細図を見て模型をつくっているとか、順番がどんどん入れ違っていくような現象が起こります。すると、一人の人間では到底考えつかないような建築ができるのではないかと、実験ではないですけど、実践し始めた訳です。
僕たちは住宅を設計するときに、フォームとカオスということを言うんですけど、フォームというのはさっきのいわゆる静体的なこと、静かにその場にとどまっているもののことです。それはこの場合は、割と構造に近い考え方です。ここで言う構造は、周りがすごく気持ちがいい場所なので、センターにコアを置くかたちをとって、そこから両翼にコンクリートの鉄骨のスラブを伸ばして、鉄骨のポストで受けるというようなかたちですね。すると四周の先ほど説明した環境に、自由に沿わせるように設計していくことができる。二階は木造の床で、三階には梁がかかって、さらに屋根が載るという三階建ての住宅です。
今、説明したのは、フォームと言われる部分ですが、カオスと言われている部分は、周りの環境や状況に合わせて、その部分部分を自由に振る舞わせながら、それを集積して全体をつくっていこうという考え方です。まず、一階は陶芸教室なのですが、道路から見えるので、ここは割と通行人から見えて、そこに工房があるということが分かった方がいいが、足下まで見えると余りに見えすぎるのではないかということで、木製の建具でこういう開口にしたり、玄関は工房とはちょっと違う框で建具をつくろうとか。東側は畑に対して開かれているので、住宅の構えとしても広げていこうとか。これは二階のダイニングですけど、ここはちょうど神社の松の木が見えるので、窓台みたいなものを水平に腰の高さで伸ばすのと、庇の関係から外部との関係をつくり出そうとか、物干し場は丸太の手摺でいこうとか。居間は神社の境内が見えるので、細いスチールの手摺でいこうと。そういったかたちで、自由に部分部分を振る舞わせながら集積していくと、全体がこういう建築になる。静体と動体をうまく織り交ぜながら、設計している感じです。
奇しくも、建築ジャーナルの山崎泰寛さんに「ドットの建築は動詞的だ」と言われたことがあり、それはずっと引っかかっていました。やはり建築をずっと止まっている静かなものと捉えるのではなくて、どこかで動いている。それは時間軸だけではなく、設計プロセスでの動き、施工の段階での動き、竣工してからも施主がどんどんいじっていけるような、建築がどんどん動いていくような仕組みをつくっていけないかと考えています。
次は「ホヅプロ寝床」という作品で、ちょっとした小屋のようなものです。次回のゲストでいらっしゃるstudio-Lの山崎亮さんに声をかけていただいて、四畳半程度の寝床を設計してくださいと言われたのですが、ただ3人で設計したのでは今までのプロセスと変わりがないので、このホヅプロ自体が、学生の方がたくさん参加しているプロジェクトでしたので、学生の方に設計から一緒に入ってもらって、施工も一緒にやっていこうというふうにしました。他にも、SPACESPACEの寝床と、吉永さんの寝床も隣に建っていて、第二期というかたちで僕たちが隣に建てることになりました。SPACESPACEの寝床が、周囲にアクティビティを生みだす計画をしていたので、僕たちが四角いものをつくっても、その周囲のアクティビティを減らすような気がしたので、既に建っている建築をどう受けるかということも考えながらやりました。学生と共にかたちをスタディして、現場で模型をつくったり、実際に床をはつったりしながら、柱を建てて、垂木を被せて、つくっていく訳です。できてみると、この垂木の部分がnikeのロゴのように見えたので、nikeの協賛をもらったら良かったなと、後から思いました。(苦笑)
司会:
あの・・・たいへん中途半端なところで申し訳ないのですが、ここで、今回の217にご協賛をいただいているスポンサーさんからのPRタイムとさせていただきます。 (中略)

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