坂 :この写真は、最近ニューヨークに作った、コンドミニアム、マンションです。ニューヨークのチェルシーという場所で、ここは最近ギャラリーが増えてきたのですが、いずれにしてもちょっと遅い時間に行くとシャッター街なんですね。みんなシャッターが閉まっているようなそういう街並みなんです。ですからシャッターがこの街のコンテクストかなぁと思いまして、メタルシャッターな家という、そういう集合住宅を作ったんです。各2層ごとにメゾネットになっていて、2つの壁をとった大きい部屋と1つだけの壁の小さな部屋があります。正面は全部シャッターで、これはパンチングメタルで出来たシャッターなので、半透明です。防犯にもなるし、それから遮光のためにもシャッターを下ろすことが出来るし、ニューヨークって結構、蚊が多いのですが、これが網戸の変わりにもなるんです。シャッターが閉まっていても、割と半透明で外の景色も見えて、エンパイア・ステート・ビルも見えます。それで蚊は入ってきませんが、その中に2層分のバイフォールディングドアという大きく折りたたんで開くような、ガラスの扉を作りました。小さい扉は内側に開きますが、大きい扉が開くと日避けになる。実はこの技術は、空港の収納庫でよく使われている技術をそのまま使ったので、全然特殊なものではないんです。

この写真は僕のパリの仮設事務所で、今はポンピドゥー・センターが完成したのでもうありません。最初コンペを取った後にパリに事務所を作ろうと思ったのです。ところがパリの家賃がすごく高くて、ポンピドゥー・センターのプレジデントにテラスを貸してくれたら仮設の事務所を作りたいんだと言ったら、それはおもしろいということでテラスを貸して下さった。それで東京から学生を連れていって、パリの学生と一緒に夏休みをかけてみんなで作ったのがこれなんです。紙管と木のジョイントで作った構造でした。実は、友達がこの事務所を訪ねて来る時、みなさん入場券を買わないとダメなんです。ここも展示物の一部となったものですから、入場券がないと僕に会いに来れない状況だったんです。

次の写真は、ポンピドゥー・センターのコンペの時に出したパネルの一部です。ポンピドゥー・センターのあるメッツ市は、TGVという新幹線でパリから90分、真東に行ったドイツの国境沿いの街です。これが簡単な街の地図で、この赤い真ん中のこの細長い部分が中央の駅です。街は全部、駅の北側にあります。ここに有名な教会があるのですが、僕らの敷地は駅の南側で全部空地だったんです。ただ何かこの街らしい建築を作りたい、何か街と関連したものを作りたいと考えたんですね。もう1つ、当時議論としてあったのが、“ビルバオ・エフェクト”です。ご存じのようにフランク・ゲーリーが設計した、ビルバオにあるグッゲンハイム美術館が非常に成功して、観客あるいは観光客が増えた。そのため、メッツ市も含めた各地方都市が、何かそういうビルバオ・エフェクトに期待するところがありました。もう1つの美術館の流れとして、建築家に美術館を作ってもらわない方がいいと言う美術館関係者、あるいはアーティストがすごく多かったんです。なぜかと言うと、フランク・ゲーリーが建てた建物ってすごく使いにくくて展示しにくいんですね。そうやって自分独自の彫刻を作ってしまう建築家が世の中に多いんものですから、例えばイギリス・ロンドンのテートモダンや、少し前に出来たギア・ファンデーション、ディア・ビーコンというニューヨークのちょっと北に行ったところにすばらしい美術館があるのですが、両方共、古い工業的な建物を買い取って内装を改造して美術館にしています。そういう風に、建築家に頼むよりも、古い建物を買い取って改装した方がよっぽど美術館的に適していると、その2つの流れがありました。僕はどちらもちょっと残念だなぁと。やっぱり美術館は建築的におもしろくあるべきだし、当然使い勝手がよくないとダメ。だからどっちかに傾くのではなくて、その両方取り入れたいと考えたんです。それでまずギャラリーとして展示しやすいように、ポンピドゥー・センターから与えられた3本のチューブって呼んでいる幅15m、長さ90mの細長いチューブで、一番展示しやすいモジュールの長方形の長いチューブを作って、それを3層、シフトしながら重ねていきました。ですからほとんど壁面なので、非常に展示しやすいです。そのシフトした方向ですが、45度づつ違う方向に振っています。街の中心と建物が少し離れていますが、建物の一番先端のところにピクチャー・ウィンドウを作り、街のシンボルをピクチャー・ウィンドウ化することによって、街と建物が一体化するという試みを行いました。この中央駅は、第一世界大戦後にメッツがドイツに占領されている時に、ドイツ軍の元に作られた非常にロマンチシズム的なドイツ建築なのですが、これも街の1つのシンボルなので、ピクチャー・ウィンドウ化しています。そうやって街と建物を一体化しています。あともう1つやりたかったのは、最近美術自体がコンセプションアートになってしまって、美術館に行かない人が増えているのですが、美術館は誰でもいける溜りの場であるべきだと思ったので、1階部分を全部ガラスのシャッターにして、そのシャッターを開けると外と中を連動させて、お茶を飲みにだけでも誰でも行くことが出来るような場所にしました。屋根についてですが、屋根の原型になったのが、中国の竹で編んだ帽子なんです。これを初めて見つけた時にすごくびっくりしたのは、とても建築的だなと思ったのです。編まれた竹の上に防水の油紙が引いてあって、裏側を見ると、乾燥させた葉っぱが断熱材として入っています。建築もアートも同じだと思うので、断熱材があって構造があって防水があるというこの形の、この考え方の屋根を作りたいなとずっと研究開発していたら、最終的にこれが出来ました。その1つ1つのパターンを見ると六角形なのですが、今回そのパターンだけでなく屋根全体を六角形にしました。実は、フランスの地図を見ますとフランスの国の形はほぼ六角形をしているので、フランス人にとって六角形は国のシンボルなのです。ですから、国際コンペに出すときはちょっとナショナリティをくすぐるような、そういう仕掛けもしないといけないので、このような形にしました。でも今イスラエルでコンペをやっていまして、その時には全然違う意味を持たせてこの屋根の形を使っています。と、言っても日本の人はわからないかなぁ。イスラエルの国旗を見てください。イスラエルの国旗にはスターデビルと言う三角が2つ重なった星があるのですが、それがイスラエルの象徴なんですね。ですから、フランスの時は六角形を使いましたが、イスラエルでは別の意味でコンペに使いました。屋根は木造ですが、この写真は幕が掛かる前の工事中の写真です。はい次。これは完成したものですね。シャッターはまだ閉まった状況で、これがピクチャー・ウィンドウです。はい次お願いします。これは夜ですが、半透明の幕が掛かっているので、夜には構造が外に露出してきます。次の写真は、シャッターが全部開いているので、外と中が連続していて、中も外もカフェみたいになっている状況です。
中央のタワーが鉄骨で、エレベーターと階段が中にあり、ここから屋根が全部つられています。つまりこの木造の屋根は、テンション構造、吊り構造なんです。吊り構造であるからよく見るとわかるように、1つ1つの集成材がオーバーラップしているんです。同じ面でぶつかってジョイントを作ると引っ張りには弱い。もちろんジョイントを作ってもよいのですが、鉄骨のジョイント作ると値段が高くなってしまいます。また、鉄骨のジョイントを使った方がその建物にあっているのに、鉄骨をただ木で置き換えただけの木造の建物が多いので、木でしか出来ないことがやりたかった。だから鉄骨のジョイントを使わずに作りたかったのです。なので、そういう鉄骨のジョイントなしに、吊り構造としてもいけるように木をオーバーラップさせました。それはさっきのチューブの帽子と同じような考え方です。はい、次お願いします。これがピクチャー・ウィンドウで、キャセドラルをフレーム化しています。

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