芦澤:藤森さんの建築の伝え方ってすごくオリジナリティがありますが、それを啓蒙されようとは思いませんか?

藤森:それは全くないね。20年間歴史やってましたからね。発想が違うと思うんだけど、フランス革命の時期にクロード・ニコラ・ルドーいう人がいて、幻想的な建築をプロジェクトでつくって。もう一つ実例もつくったんですが、実例も相当独特の幻想性のあるもので、ずっとルドーが好きなんですよ。
本当にぼくが好きなのはルドーとアーキグラム。それと、もうひとつ僕が本気で負けたと思ったのは石山さんの。川合健二の建物がちょうど僕らが高校生のときにできたの。週刊誌で見てすごいと思ったの。いつかこういうものをやってやろうとおもったの。そしたら大学院入って歴史をはじめた時期でしたけども、石山さんがつくっているのを見ていたの。歴史に来てよかったと思ったね。そんなやつと競い合うなんてたまったもんじゃない。でもねあの名作原案が、建築雑誌の当時建築文化と新建築っていうのがあって1誌は取り上げなかったの。取り上げなかった編集長にあとで聞いたんだよ。どうしてあのときあれを取り上げなかったのかって。建築じゃないと思ったって。変なもので、建築雑誌に取り上げるもんじゃないって。

平沼:新しすぎたってことですか。

藤森:そう新しすぎたね。だからそれ以来、石山さんへの畏敬の念を持ちつづけてきた。

芦澤:藤森さんの作品見せていただいて、石山さんよりもっと幻想的な世界を描かれていると思っています。

藤森:幻想…自分もわかんないけどね。でも、石山さんの幻庵だってすごく幻想的だったよ。今から40…50年前。川合健二のドラム缶がでてきたときはもっと前ですか、高校生でしたけど、こんな建築が世の中にあるのかと思ったんですけどね。

平沼:残念なのですが、時間が一杯になってきました。最後の質問をさせてください。建築家とはどんな職業でしょうか?

藤森:建築家を職業としてはやってないからね。時間も3分の1ぐらいでしょうか。歴史家としての時間が3分の1で、大学の仕事が3分の1で、建築が3分の1ぐらいですね。

平沼:今まで建築史家をやられて、作家としても活躍された建築家はいるのですか?

藤森:100年前の人ですけど、伊東忠太。最初から歴史と建築を並行してましたからね。

平沼:藤森さんが取り組む3分の1の職業としても、建築をつくることはどう捉えていますか?

藤森:非常に魅力的な仕事です。そして中毒的に面白いのです。経済的にうまくいかないことや、たくさんの問題がありますが、21世紀において恐らく理想的な仕事だと思っています。取り組むのは大変だけども、信頼性や精神性、いろんな事に接しながらやっていける仕事は他には少ないですね。僕は、例外的だけかもしれないけど、そして、友達の建築家たちは苦労しているけど、みんなはまりこんでやっています。でもそれが、社会的に評価されるかどうかっていうこととは、分けて考えないといけません。それに社会的に評価されようと思ってやるものじゃない。それでやれるようなものでもない。なかなか大変。でも、やれれば絶対におもしろいですよね。

平沼:今日の藤森さんのお話しを聞けて、たくさんの勇気を与えてもらえた気がします。本当に最終の新幹線の時間ぎりぎりまで、ありがとうございました。今日はとても楽しかったです。

藤森:こちらこそ、どうもありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

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