藤森:この写真は銅板を壁に使用した建物です。最初はね、銅板の家ということでコパーハウスって名づけていて、1階がRC造、2階〜3階が木造の建築です。新建築にはそれで発表したんですよ。そしたら周りの子供がね、これを見てチョコレートハウスって言うのです。今はチョコレートハウスって名前を変えています。これも銅板を手で曲げる方法で使っていて、うちの研究室の学生が曲げて張っています。前半は、自然の素材をどう使うかっていうのがテーマでつくった建築を話しましたが、これからお見せするのは、植物をどう建築に取り込むかということでお話しします。世界的に言いますと、唯一植物を取り込んだのはですね、屋上庭園ってのがあるんですけど、それは伝説的には、その、バビロンで作られていたって言われてますけども、世界で一番古い屋上庭園ってのはイタリアにあって、それは17世紀のものが残ってます。本当にちっちゃなものなんですけどね。屋上庭園は僕はまるでやる気が無くて、屋上庭園ってやってみると分かりますけどね、庭園部分と建築の美学が全然バラバラなんですよね。庭だけ見てるといいけど、建築と見ると、合わせるとなんか変なんですよね。僕はやらないので、なんかいい屋上緑化のやり方はないかということで、これは歴史をやっていたから芝棟という技術が日本にあることを知ってた。芝棟っていうのは茅葺の上に草を植える技術です。これは東北地方で撮ったもんです。で、これは百合が咲いてます。実は、芝棟ってのは、日本の茅葺ってのは茅で覆われた例ってのは実は例外で、基本的には全部茅葺の上に草が植わっていたと思ってください。これはあのー明治40年代の箱根の宿です。この左の上の方に明治天皇のね、洋館ができてるので40年代前後って分かるんですが、見ていただくと分かりますが、茅葺の上には全部草が植わっています。ちっちゃな物置や、ちっちゃな外便所の上にも全部草が植わってるんです。だから茅葺の屋根のてっぺんってのは草を植えるってのが習慣だったんですね。まさかと思うかもしれませんけどね、僕が子供のころにちょっと覚えてるんですよ。僕は長野県で育ったんですが、ぼーっと屋根のてっぺんに花が咲いてた記憶があって、それを親父に言ったらね、いや昔はいっぱいあったって言うんですよね。ただこれは雪国には無かったんですよね。だから防寒のために屋根全体に草を植えていた習慣の名残りだと思いますけどね。このやり方は僕はとても興味があって。これはもう上に草が植わってますけど、遠景を流れているのはセーヌ川なんです。実は世界で芝棟という技術は日本とフランスのノルマンディ地方にのみ残っています。これはノルマンディの例です。植えてるものも全部同じでここにね、いちはつの花が咲いてるのを撮りたくて、この村に僕は4年間毎年いったんですよ。でも年によって全然違うらしいの、2週間くらいでずれちゃうんですよね。それで残念でしたけど、咲いてるのは見せれない。それで芝棟をやってみようってことで、ねむの木学園ってのでやりました。これが芝棟ですね。ドームの形は後ろの山に合わせてつくって、これもあの手で曲げた銅板を貼ってます。屋根を金属板で葺くときにですね、技術的に、自由曲面を葺くことはできないんです。世界のどんな技術でもできない。だけどこの折り曲げた銅板を使うと自由曲面が葺けるんです。これで自由曲面を銅板で葺く人が大変だったっていいますが、とにかくてっぺんでね、どうやって雨を降らせないように、漏らないようにするかって大変苦労したんですけど、てっぺんも漏らずに葺けました。だからそういう技術は自分で工夫してやるしかないんですよね。
これはてっぺんに松の木を植えた例です。僕は一部の建築家と違って施主と喧嘩はしないんですよね。それでこれもね、やったあとに施主が嫌がったら切ろうと思ってた。それで施主がこれ見に来たんですよ。丁度ね、クリスマスの近いころでね、引き渡しの直前で見に来て施主がもう、げらげら、もう大笑いしてんの。呆れ果てて。それで許してもらえたということで。この住宅の施主が石炭王って呼ばれた大富豪だったんだけどね、東京にもう引っ越したいと。地元、九州ですけど、で暮らすのは年を取ってやだって東京に引っ越したんです。でもこの施主がですね、この家は藤森さんの家だからこういう状態を好きだという人以外には売らないということで、その条件で不動産屋に出したんですよ。そしたらね、3年間いなかった。売れなかった。まぁ経済的にゆとりのある方だから気にしてない。ただ3年目に現れたんですよね。それでご夫妻で藤森さんの家に住みたいということで、それで今は大事にしてもらってます。ホッとしましたけどね。

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