藤森:これは赤瀬川原平さんの家で、ニラハウスっていいます。これは赤瀬川さんに頼まれて、ごく普通の家をつくろうとしたら、せっかく君に頼むんだからなんかちょっと面白いことやって欲しいって言われて。僕の頭の中にはですね、決壊寸前のダムの如く面白いことがいっぱいあるんですよ。なかなか、そういうことやっても問題無いような施主が現れないのでやらないんですけど、このときは二つ考えたの。屋根にニラを植えようってのと、入口がちょっと下がって入るようになってるんですよね。そこに橋を架けて上げ橋にしようと思った。可動する。その二つを提案したんですよね。僕は当然ニラを植える方を断ると思った。そしたらね、橋を上げる方が嫌だって言うんですよね。なんで嫌ですかって聞いたらね、その橋を自分が家を出る時ね、橋がバタンとなって自分が出てくったら何かね、とても恥ずかしいっていうんだよ。それで自分が帰ってきて、こうブザーを押すと橋がバタンとなるわけだよね。それもみんなが人が見てたら恥ずかしくてそんなこと出来ないってね。僕は屋根にニラが植わってる方が余程恥ずかしいと思ったんだけど、まだニラの方がいいって、それでニラを植えることにしたの。それでニラを植えるのは業者やってくれないので、業者がここまではやれますってとこはやってくれて、あとニラを植えたり、その配置は自分たちでやって。このときにね、縄文建築団ってのができるんです。僕のその建物をつくる素人のグループなの。それで、赤瀬川さんの関係者と奥さんが来て、これはニラを植えてくれてるところですね。こういう状態で植えて、これがね育つかどうか。それともう一つ面白いことがあってね、これがなんと投書によって建築事法違反だっていう問題が出る。違反なんですよ。ところがね、町田市が許認可権を持ってる、町田市がなんとこれを景観賞で表彰して、それで議会まで呼ばれて表彰してるんですよ。びっくりしたんだけど、見落としたみたい。その書いてあることを。まさか屋根に木を張ると思わなかったらしくて、通っちゃってるんですよね、ちゃんと確認申請を。そのあと表彰までしちゃったもんだから、結局ね、その町田市としては最後まで合法ですっていう。そのあとね、隈さんが馬頭町で屋根に板を張ったのをやった途端に建設所に呼ばれて、隈さんに聞いたらね、なんでって藤森先生んときに町田市が最後まで合法って言ったけど、あれは合法じゃないので、あなたの場合はちゃんと屋根に板を張ることをチェックするって。本当はね、屋根に板を張ってもいい技術があるので、それを使えということで、宇都宮大学の先生が屋根に板を張ってもそれに火がつかない技術を開発したらしいんだよ。で、今は日本中どこでもその技術を使えば大丈夫です。どんどん使ってください。だからこれは実際非合法。それで屋根にニラ植えたのが咲くんですけど、どうなるか分らなかったんですけどね、夏がきまして、見事に咲いたんだよね。嬉しかったですよ。僕の理想はね、建築と植物をなんとか一体化させたいって、もっと言うとね、建築から産毛のようにその植物を生やしたいってのが理想なんです。それで産毛に近いのはニラで、ポッドで植えれば毛穴に近いだろうってこれをやって、初めてのことってなんでもそうですけどね、意外な問題が起こる。まずね、ニラの根が枯れないんだけど、根詰まりによってあんまり綺麗に花が咲かない。それとね、管理を赤瀬川さんや屋根に上ってやってたんです。老齢になって屋根に上れない。今車いすですからね。今はニラは一部だけにして銅板に変えてますけど、そういう問題があった。これは綺麗にこのままやっとります。なかなかいいもんですよ。以上で植物は終わり。茶室をやります。
平沼:前半のお話しありがとうございました。僕が言うのも恐縮ですが、さすがにおもしろいです。
芦澤:植物は産毛くらいがいいのですかね。剛毛のようなしっかりしたのはやっぱり駄目な感じですか?
藤森:剛毛は・・・、あなたの髪みながら言うわけじゃないんだけど。
芦澤:はい。
藤森:やっぱり産毛がいいな。(笑)
芦澤:あ、そうですか。(笑) そういう、繊細な建築と植物の関係がいいと?
藤森:そうですね。植物って暴れると汚いんです。それがもの凄く僕は嫌いでね。やっぱり最終的には綺麗な物をつくりたいと思う想いがあります。だから植物が勝手に生える状態は好きではない。それは野山で生えてくれればいいので、やっぱり建築の尊厳を植物によって失いたくないっていう思いがあるのです。本当に植物が好きでぼんぼん屋上で木を扱う人がいますけども、それには全く興味がないのです。なんとかして、植物と建築の接点を探りたいのです。でも、未だに絶望的な状態ではあるんだけども、なんとかなるんじゃないかっていう思いなのです。ただ、現在の屋上庭園にもあるような緑化の手法や壁面緑化の世界の例はたくさん見ましたが、すべて絶望的に失敗していますからね。とくに壁面緑化の失敗は山ほど見てきて、とても難しいですよね。
平沼:僕も最近になってようやく建築と植物の関係について考えはじめているのですが、特に壁面緑化のように植物を垂直に立てた時の建築との接点には本当に悩まされています。失敗なくして解決方法が見当たらないというイメージです。
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