芦澤:曲面の形態を木造でつくられています。これらは歴史的に、あまりされていなかったことなのではないかなと思います。一方で軸組のラーメン構造のようなものを木造で解かれたりもされていて、多様な木造の使い方をされていると思います。他の建築家の方のものと比べて、坂さんの木造建築との違いをご自身はどう捉えておられるのでしょうか。

坂:自分では、自然に設計しているだけです。ただ、先ほど話したようにフライ・オットーさんと一緒に仕事をさせてもらって、初めて紙管のグリッドシェルを生み、木のグリッドシェルをつくり、随分いろんなことを学びました。その1つの例として、彼の作品でIL研究所という、シュトゥットガルト大学に彼がモントリオール万博のためにつくられた建築があります。網みたいなものを引き上げる、シェル構造です。その実験棟が大学の彼の研究室に今でも残っているんです。そのモントリオールのパビリオンは、チェーンの上に膜を張っているだけで非常に良いんですが、その研究所は中で仕事するから断熱性能が非常に高い。チェーンの周りに板を張って、断熱材を入れて屋根を葺いてる。それを見た時に僕はもったいないなと思ったんです。なぜかと言うと、もうそれだけの木を張って、木だけでシェル構造になっているわけですから、中のチェーンがなくたって木のシェルだけで自立しています。あれは実験としてつくった、中は研究所で断熱のための構成なのですが、構造としては、2つの構造がバッティングしてるなと思いました。これだとチェーンの構造で成り立ってるのに周りに全部木を張って面を作らないといけない。木というのは大体梁で使う時は縦で使いますよね。でも縦で使うということは他に面材が必要になってくるわけです。しかし寝かせて使えばそれだけ面として使えるし、それから曲面に曲げる時でも集成材を加工して曲面を作るよりは薄い水平方向にして曲げた方が簡単です。曲面を木で作りたいのなら、縦で使って集成材を加工して曲げるよりは、水平に使って自然に曲げた方が有利です。多分それまで木を水平に使っているものはなかったと思います。ジョイントで腐らないためにオーバーラップしたりしていました。オットーさんのその作品を見て、もったいないなぁと思い、気づいたのです。コンペの時は世界で超有名だったARUPのセシルバーマンという構造家がいるのですが、一緒にやりました。彼は、その時僕が木造をやりたかったのに、彼は木造が得意ではなかったため木造の中に鉄骨が入りました。コンペ時は木造+鉄骨だったんです。しかし僕はとにかく木造でやりたいと言ったら、彼にもう自分では出来ないと言われ、ARUPの誰も解決できなかったんです。その時にブルマさんというスイスの人に会って、僕の持っているものを見せると、彼は出来ると言ってくれました。その後1週間したら解いて持ってきたんです。それでコストも鉄骨を使わないのでさらに安価ですみました。それからずっと彼とコラボレーションしています。そうやって色々なことを学んでいます。やはりスイスやフランスに1週間おきに通っているんですが、当然アメリカにもないし、日本にもない、技術や木造に関連するメーカーがたくさんあります。ヨーロッパにいるとそういうところといつも様々なコラボレーションができて色々なことを学びます。だからやはりヨーロッパに通うということによって、色々な知識やエンジニア、コンサルタントと知り合い学んでいくプロセスがずっと続くということが自分にとっては重要だと思っています。

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