芦澤:はい。坂さんも最初におっしゃられていたんですけど、木を使われる時は、木でしかできないことをされたいと。木造だけで解くのではなくて、木造と、RCと鉄骨を上手く組み合わせてデザインされていると思うのですが、例えば原理主義的にとにかく、使えるだけ木を使おうというような建築家もいらっしゃると思うんです。その辺り、坂さんの構造形式を決める時のお考えがあれば教えてください。

坂:僕は、何でも木でつくる、ということに興味があるわけではなくて、それぞれの材料にはやっぱり向いた使い方があると思っています。ですから、別にコンクリートや鉄骨を否定しているわけではありません。鉄骨が向いてる構造もあれば、木が向いている構造もあるわけでね。つまり適材適所に使いたいと思っています。でも、燃えしろ設計じゃなくて、燃え止まりを確保するという日本の馬鹿げた法規があるために、木の中に石膏ボードを巻いて、1時間耐火、2時間耐火をとっているようなケースがありますが、僕はそこまでする必要はないと考えています。それだったら鉄骨の周りに木を巻けばそれで済んでしまうことであって、やはり、どこまでやるべきなのか、やる必要がないのかということをきっちり見極めるべきだと思っています。ですから実験的に、大手ゼネコンやハウスメーカーが「10階建てを木造でやります」ということに、実験としては評価をするのですが、何でも木でやればいいということではないと感じ、やはり適材適所に構造素材を選択したいと僕は思います。

平沼:この7年間でつくられた木造の数と、それまでの約25年の間でつくられた数の比率はどれくらいのものですか。

坂:その以前の木造は、住宅程度を数件しかやったことがなかったものですから(笑)、比較にならないのです。そして公共建築も、ポンピドーセンターが初めてですから、日本でも当然、やったことがなかったのです。

平沼:今、木造マイスターのようなお話しをお聞きしていますと、信じがたいです(笑)。 

坂:いやそんなこともないと思います(笑)。今日、お話しした新しい木造という形式をやったことがなかったのです。ただ、紙管を構造体として開発することによって、フライ・オットーさんと共同して、ハノーバー万博のグリッドシェルを生み出せましたし、随分と勉強をさせてもらったおかげで、新しい木造の考え方が自分の中で育っていきました。

芦澤:坂さんご自身がおそらく相当構造的なセンスと言いますか、構造デザインや、もしかしたらもう計算もなされているかもしれないんですけれども、ご自身でどこまでやっていらして、構造パートナー、構造設計者との、どういった通常コラボレーションの方法をとられているんでしょうか?

坂:学生時代から構造が好きでしたから得意で、当時は計算もしましたね。だから今でも構造デザインは、夢中でやってしまいます。

芦澤::なるほど

坂:そして適切な構造エンジニアを選んで、一緒に実現の方法を探ります。

平沼:以前、SDGの渡辺邦夫先生から聞いたことがありました。通常の設計者は構造家に何かのアイデアを求め、それをネタにしようとする人が多い中、坂さんだけは他の人と違い、提案をしっかりと提示され、これを実現してくれ、と凄い勢いで頼んでくると(笑)。

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