平沼:いくつかご質問をさせてください。まずは芦澤さんいかがですか?

芦澤:コンペを獲られた後「まずは現地に事務所をつくられて」というお話がありましたが、現在ではもうローカルアーキテクトは付けずに、ご自身がライセンスを取られて活動をされているのでしょうか。

坂:現在、事務所は東京とパリ、そしてニューヨークにありまして、パリにはフランス人のパートナーが、ニューヨークにはアメリカ人のパートナーがいます。そして彼らは、僕のクーパーユニオンのクラスメイトでして、もう30年来の友人です。そして20年来一緒に仕事をしているフランス人のパートナーと日本人のパートナーが各国にいます。

芦澤:同じ事務所にいらっしゃってやられているということですか。

坂:パリのパートナーは非常勤体制。自身で運営する事務所も営んでいますので行ったり来たりしています。

平沼:その3都市の事務所をひとつにまとめ、進められていることを想像しただけでも敬服します。行政への申請許可もそれぞれの事務所内で応対でき、全てがフィックスされていきますね。

坂:そうですね。フランスの方もニューヨーク方も今の段階でようやく、ですけどね。

平沼:時差を想像すると同時多発的に24時間各国で動いているような息づかいを感じます。このまま、もう少しお話しの続きを聞かせていただいてもいいですか。

坂:はい。これはスイスのチューリッヒに造った、タメディア新本社という7階建ての木造の建物です。これも鉄骨のジョイントを使いたくなかったので剛接合のジョイントを作りたかった。それでどうしたかというと柱に対して2枚の梁を貼り合わせて挟み、直行方向の梁は断面が楕円なんですが、それを差し込むことによって断面が楕円ですから回転しないで剛接合のジョイントができるという風になっています。これも燃えしろ設計がしてあります。日本には燃えしろ設計の上に燃え止まり設計というばかげた過剰な法律がありますが、海外にはそういう法律はなくて普通に燃えしろ設計だけなので、一時間耐火なら45mmなど決まった燃えしろがあれば、材を露出できるわけです。外壁はアルミですが隣にある歴史的な建造物のパターンをのばしてパターンを作っています。一部細長い線があるところはガラスのシャッターになっていて、開けると半屋外、屋内空間ができるようになっています。

これはそのすぐ後にやった仕事で、アメリカのコロラド州にアスペンというすごく有名なスキーリゾートにつくった地元の小さな美術館です。完成したのが2014年。本当に小さな美術館なんですが、このあたりのダウンタウンの建物はレンガのキュービカルな形をしているので、そういうキュービカルな形でレンガみたいな重いものを使わずに、周りのコンテクストに溶け込むような建物を造りたいと思いました。これはプロディマというスペインの材料です。これは実はベニヤの裏に紙をレジンで固めて張ってあって、外部に使える仕様でありつつ、不燃化してある材です。それを板で買ってきて、細く切って手で編んで、このスクリーンがつくられています。非常階段などあまり見せたくないところは少しパターンを密にして周りのコンテクストに溶け込むようにしました。これは鉄骨造ですが屋根は全部木造です。この建物はあまりにも狭くて1階にロビーが全くない。それでどうしたかというと、まずこの半屋外の大階段に登るか、ガラスエレベーターで屋上に上ってもらい、屋上に行ってスキーのゲレンデや周りのきれいな山を見て、それで徐々に下に下りていってギャラリーに入るという構成になっています。なぜこのような構成にしたかいうと、面積が狭かったというのと、スキーが有名なので、スキーをする人は分かると思いますが、スキーは、まず登るか、リフトに乗って山の頂上に行き、山の景色を楽しみながら少しずつ下りてきますよね。ですから美術館を楽しむプロセスにも同じ方法を取り入れました。これも鉄のジョイントを使わずに作ったスペースフレームです。やはりスペースフレームですとこんなところに金属のジョイントがいるのは当たり前です。しかし、いかに金属のジョイントを使わないかということを考えて、この斜材を波型にカーブさせ、それによってこの下弦材と上弦材がぶつかったところに1つボルトを貫通させれば緊結できるというようにしました。そうやっていつもいかに鉄骨のジョイントを使わないかということを必死に考えています。これは大分県立美術館です。これも2016年に日本で初めて取ったコンペの公共の仕事です。これは建物の規模上、木造ではできませんでした。しかしなるべく木を使いたいということでした。地方のコンペでは地方に何も特色がないくせにその地方らしさを出せってコンペの要項に書いてきますよね。馬鹿げていると思ったんですが、大分には竹の職人さんで、人間国宝の方などの素晴らしい作品のコレクションが沢山あります。そういう編んだ竹のイメージを用いました。3階のギャラリーは鉄骨で、周りに木が張ってあって耐火被覆になっている材があります。実は僕10年、5年前にそのアイデアで特許をとっているんです。今はほっといたら盗まれて製品化されてしまったんですけれど、大阪のGCという歯医者の会社のビルで、鉄骨の周りに木を巻いて、耐火被覆兼燃えしろ設計と同じ考え方で作ったものです。それが製品化されたものを縦に使い、それから斜材は耐火被覆する必要がないですから、地元のヒノキをそのまま全く耐火被覆せずに使って、それを重層して編んだようなパターンにしています。3階のギャラリーの屋根も木を組んで自然光を入れる別のギャラリーを作っています。

これは7年半前にパリの郊外に完成したラ・セーヌ・ミュージカルという音楽複合施設です。セーヌ川の上のセガン島という島なのですが、ここには90年代までルノーの工場がありました。それが撤退して更地になった。しばらくして、フランソワ・ピノーという人が美術館を作ろうと国際コンペをやって、安藤さんが勝ち取ったんです。それで工事が始まったんですが、ピノーさんが色々な税金の問題で国ともめて嫌気がさして自分のコレクションを全部ヴェニスに運んでしまい、残念ながらプロジェクトが中止になったんです。その後にこの音楽複合施設の中に1200人収容できるクラシック専用ホールと、この山のような部分の中に4000人の多目的ホールと音楽学校を作るという新たなコンペが始まりまして、運良く勝てました。最初にやった僕の仕事は、安藤さんが打った杭を抜くことから始まりました。

会場:(笑)

>>続きへ


| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | NEXT