平沼:でも今の、紋章から建物の構造を見つけようなんて、千葉さんみたいな方がやられると思わなくって、なんかちょっと嬉しかったというか、学生とか勇気を持ったと思うんですよ。

千葉:いや、最初に紋章見た時に綺麗だなと思ったんですよ。

芦澤:うんうんうん。

千葉:さっきの今井さんのS字の梁とかね。S字があちこちに出てくるんですけど、近くを流れる夷隅川の形なんですね。分かり易いじゃないですか。最初は川の形かとちょっと驚いたんですが、今井さんの精神を引き継ぐとしたら、直接的でもいいんじゃないかと。

平沼:あはは、なるほどなるほど。

千葉:なので、紋章そのままでいいじゃないかと思って考え始めたのがコンペの初期段階なんですよね。

平沼:結構純粋に受け止めるんですね。

千葉:えぇ、すごく素直に受け止めます。でも、どこかで自分達なりの合理性が見つからないと嫌だと思っているところもあって、それで五角形から始まったんですが、コストも含めて構造的な合理性がどうしても見出せないと思って最後は諦めたというわけです。

芦澤:なるほど、なるほど、

平沼:紋章でやってて、普通壁には行かないですよね。千葉さんみたいに設計経験の豊富な方が、壁には落とさないですよね。

千葉:そうですか。意外といけるんじゃないかと僕達は思ったんですけどね。五角形を全部面的に繋げると無理があるけど、部分的に繋げていくのであれば、ちょうどその開いた所が入口になるんじゃないかと考えて、僕達なりにあれは理に適っていると思ったんです。

平沼:そうですか。それでこっち側はまだ目立ったけど、屋根に張って行った、梁にまた次行ったという。

千葉:まぁ、新谷さんから、壁だとさらに意味がないと。

平沼:うん。

千葉:構造設計家ってそれぞれみんな進め方に個性がありますよね。新谷さんは、その場であんまり具体的な答えを出さなくて、自分の最初の印象を言って終わっちゃう事が多いんですね。面白い事考えますね、まぁ、でもねぇ、みたいな事を言われて。

芦澤:ははは。

千葉:新谷さんの一言がショックで、やっぱり考え直そうと思っていた時に、あの屋根は意外と良いんじゃないかと、また違う事に興味を持って一気に動き始めてしまったという感じですね。

平沼:今のプロセス面白いです。すっごい面白い。

芦澤:増築はそういう点を引き継いでやられて、改修はどんな狙いを持ってやられていますか?

千葉:古い建物の改修だと、建築家はついつい何か新しいものと、昔の建築家との対比を目指したりしますよね。つまり、古い物に対して何か異物を突っ込むとか。僕達もやはり最初はそう考えていたんですね。町からも、会議室がたくさん欲しいといったリクエストもたくさんありましたし。でも、解体を進めていって、引越しも終わって、今井さんが最初に作った時の建築の姿が露になったんですね。それを現場で見た瞬間、ものすごく感動しちゃったんですよね。

芦澤:あー。

平沼:うん、うん。

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