千葉:次は全然違うプログラムの小さな住宅ですが、やはり人と人がどういうふうに集まったり、関係づけられたりしたらいいのかということを考えたという点では、ここでも同じです。家族ってそもそもなんだってことを真面目に考えるんです。この住宅は、渋谷から電車で30分くらい行った東京の郊外という、ごくありふれた住宅地に建っています。右側に母屋があって、桜の木を挟んで左にアパートがありますが、そのアパートを建て直して新しい家をつくるという計画です。若いご夫婦が住むのですが、お子さんもできるかもしれないというタイミングだったので、そもそも家族とはどういうものか、ということから考えました。そこで僕たちは、自分一人になりたいと思うときもあれば、どこかで家族同士がつながっていたいと思うときもあるという、そんなごく自然な家族のかたちを実現しようと考えました。繋がることと離れてることを同時に実現したいと。それで、それぞれの居場所が独立しつつ、屋根裏で全ての部屋がつながっているという住宅を考えたのです。プランは非常に単純で、リビングとか子供部屋、ベットルームがそれぞれ水回りや収納で隔てられていて、そこを横断するように梁がかかっています。その梁は成が大体1.2mくらいあるんですが、そもそもローコストでしたから、在来の木造でやることを前提にしていたので、あまり大きい断面の部材は使わないように考えて梁をつくりました。例えばキッチンの向こう側には子供部屋がありますが、天井は繋がっています。子供たちが寝たとか起きたとか、そういう気配が天井越しに伝わってくるような、そういう家になっています。
芦澤:ロフトはどういう風に使われるんですか?
千葉:ロフトはですね、行ってみるとよく昼寝をしたりしていますね。ここに上がると家全体を見渡せるような場所になっているんですが、本を読んだりもされているようです。僕が訪ねていったときには、ここでお茶を出されました。茶室みたいな感じですね。一つ一つの空間はそれほど大きくはないんですが、一つ一つの場所が独立しながらも孤立はしない、そういうあり方を探っていたものですね。
芦澤:梁は中に軸組を入れているんですか? 複合張りのような形で。
千葉:そうです。単純に間柱のようなものをずっと並べて、それを構造用合板でサンドイッチしています。
芦澤:千葉さんの言うローコストってどれくらいの値段なんですか?
千葉:いくらだったかな。ほんとにローコストですよ。坪75万とか80万くらい。さっきの工学院大学もそのくらいですよ。坪70万ぐらい。あんまり予算に余裕のある仕事はやったことがないんです。スタッフが予算を使う術を知らなくなるんじゃないか、予算が潤沢にある仕事がきたら皆うろたえるんじゃないかって心配ですね。
芦澤:それは施工者は泣いていませんか?
千葉:いや、それは無いと思いますね。僕たちが泣かされていることが多いと思うんですけども。
芦澤:なるほど。
平沼:この辺でいくつか質問させてください。建築形態とか建築計画だったり、空間をどのように導き出されていますか?
千葉:建築を世に生み出す責任みたいなのをすごく感じているんですね。いろんなことを検証し尽くさないと嫌だなって思っていて、それであらゆる案の可能性は、いつも考え
尽くそうと思っているんですよ。なので、ものすごい数の検討をします。それで一ついいなと思っても、そうじゃないのもあるよねって思って、また検討をする。ものすごくいろんな可能性を探った上で、その場所やそのプログラムに応じた最適解を見出したいと考えているんですね。その際、プログラムとか敷地をどう再解釈するかという点も興味のあるところで、例えば工学院大学だと、プログラムを人と人の関係性に置き換えて考えていたと思います。空間そのもののスタディというよりは、人の集まり方の関係に置き換えて考えいく、そういう意味では、通常の設計とは違うのかな?と思うところはありますね。家をつくる時も、もちろんいろんなリクエストがあるわけですけれど、それとは違う次元で、人と人の身体的な関係、それは意外と普遍的なことだと思いますが、そういう観点からどうしようと考えていると思います。
芦澤:千葉さんって割とかちってしたものをつくられるというか、近代モダンの言語を敢えて用いながら、これまで見出されていなかったような空間性だとか建築の可能性を探られているのかなと気がしているんですけどもいかがでしょうか?
千葉:それは半分当たっていると思います。つまり建築の歴史を語るときに、例えば近代建築は幾何学と言われますよね。つまり形態言語の歴史として捉えられているわけです。そういう視点も大事だなと思う一方で、形態言語はいずれまた変わると思っているところもあります。ただそこに生み出すことができる関係性自体は、人間が集まる場である限りは時代とは関係なく、もう一つのテーマとしてあり続けると思うんです。だからそこには、まだまだ新しい視点を導入できるのではないかという思いは強いですね。
芦澤:なるほどなるほど。 |