平沼:なにか、他分野、建築以外の分野から影響を受けられていることってありますか?

千葉:今日もずっと人の話ばかりしてますが、人にすごく興味があるんですよね。人の活動にも興味があるし。人の様々な振る舞いや習性にも興味があるし、さらには人の集合体としての社会全体が持つ習慣とか動向とかにも興味があるので、社会学の本をよく読みますね。

芦澤:あーなるほど。

千葉:それからもう一つ、すごく影響を受けているのは、ランドアートですね。1960年代から70年代ぐらいですけど、アメリカやイギリスを中心に流行ったランドアート、みなさんご存知ですよね?

芦澤:スミソンとか…

千葉:そうですね、ロバート・スミソンとかウォルター・デ・マリアとか、いろんな人がいますけど、要するに今まで美術館の中に閉じこもっていた作品が自然のなかに出て行って、そこで単純な一本の線を引きます、みたいな作品がいっぱい出てきましたけど、あの時代の作品群にはすごく影響を受けていますね。つまりあの作品群は、自然と人間の関係性がテーマだったと思うんです。人間と自然の関わりというのは永遠のテーマでもありますね。人間も自然の一部だという考え方ももちろんあるし、自然こそが形態の源泉だという時代もあった。今もまさにそういう時代ですが、でも有機的な建築の形というのは、アールヌーヴォーの時代にもあったし、いつの時代にも常にありますね。

芦澤:ええ、ええ。

千葉:でも自然が持っている豊かさは、それだけでは表現しきれないと思っていて、あの頃のランドアートは、自然の豊かさの表現は、自然の模擬的な表現によってではなくて、人間が生み出す人為的な形態によって逆に自然の様々な潜在的な魅力が浮かび上がってくる、そういうメッセージなのだと思っています。そこがすごく興味深いところです。

芦澤:なるほどなるほど。

平沼:ちょうどこの前デンマーク行って、ルイジアナに初めて行ったんです。ああいうことですよね。素晴らしいですよね。
影響を受けられた建築家っておられますか?

千葉:いやもう、これはすごくたくさんいます。もちろんコルビュジエも大好きですし、コルビュジエよりもさらに遡ると、ライトにも随分影響を受けてきたし、ルイスカーンも好きですね。

平沼:カーンの匂いがしますね。

千葉:匂いがしますか? カーンは、イエールのブリティッシュアートセンターを見に行った時にすごく感動したんですよね。あのアートセンターをご覧になった人っていますか? 大学時代に研究旅行でアメリカに行って、もちろん事前に色々調べていて、図面とか写真も見ていたのですが、この建築は何が面白いのだろうと思っていました。普通に四角い建物で、階段室があって、展示室があってと。そう思って訪れたのですが、入った瞬間の感動は忘れられないですね。こんな豊かな空間が広がっていたのかという、あれは衝撃でした。
芦澤:うーん。

平沼:うーん。

千葉:だから本当にいろんな建築家に影響を受けていますけれども、自分で仕事をするようになってからは、やはり同世代の建築家にすごく影響を受けていると思いますね。やっぱり同世代の建築家は、社会的背景も含めて同じ頃に独立して、仕事の無い時代も一緒に共有して来ているので、同じ世代の建築家と交わした議論はずっと肥やしになっています。

平沼:うーん。今年来て下さった阿部さんとかは?

千葉:阿部さんも同じ世代ですね。ある時期一緒に仕事に取り組んで、毎晩の様に打ち合わせをしていました。スタッフからは、私たちよりも阿部さんと会っている時間が長いなんて言われて。考え方も、もちろん共有できるところもあればぶつかるところもあるんですけど、そういうプロセスは非常に貴重でしたね。

平沼:はい、じゃあ次のプロジェクトに。

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