平沼:先ほどのお話の中で、まあ、哲学とか文学に影響を受けているっていうお話を聞いたんですけど。

北川原:ステファヌ・マラルメっていう僕の大好きな詩人で、アリアの工業団地のデザインのきっかけにもなったわけですが。今映ってるのがマラルメさんですね。1898年に、詩を書きながらね、呼吸困難になってバタンと床に落ちて、そのまま死んじゃったという、本当にすごい人ですが。葬式でオーギュスト・ロダンが弔辞を読んで、マラルメのような人は、今後100年世には生まれてこないだろうと言ったそうですが。さっきちょっと説明しましたけど、マラルメの詩の構想って全く新しいですね。そういうのに影響を受けたり、それから今映ってるのはロートレアモンっていう詩人のマルドロールの歌っていう詩。僕が大学1年生の時にこの詩を初めて読んで目覚めちゃったんですけど、ここに、「ミシンと洋傘の、手術台の上の不意の出会いのように美しい」って書いてありますが、これは文学をやってる方だったらほとんどの方がご存知で、建築家でこの話をしていたのは、僕の知る限りなんですが磯崎新さんと原広司さんですね。すごいなと思ったのが、いわゆる全く関係のない、傘とミシン、それが手術台の上にある、それが不意の出会いと言っていて、それがさらに美しいと言っていると。この全く無関係の物がそこに同時に存在しているところに美しさを発見するっていう、これこそがなんか新しい想像力を求めているんだって、大学1年生の時に目覚めちゃいましてですね、それで芸大は面白くないとか思ってしまって。

平沼:あはははは(笑)。

北川原:建築の授業はね、窓の大きさはどうだとかね、トイレのドアはどっちに開かなきゃいけないとかね、そういうことを教えるんで、んなこと言ってる場合じゃないだろうとか(笑)。

芦澤:それは吉村順三さんが教えられてたんですか。

北川原:やっぱりね、吉村スクール、それから吉田五十八、あの影響は強烈なわけですよ。それは未だに根強くあるようで、それももちろん大事です。もちろん大事なんだけど、そうじゃない世界もあるっていうことも学生に教えたいっていうのがありますよね。こういうロートレアモンとか、それからいろいろ大好きな物があるんですが、これは長谷川等伯ですね。国宝になってると思いますけど、これすごい絵ですよね。これ、ものすごいスピードで描いてると思うんですよ。一説には、これは本ちゃんの下書きじゃないかという風に言ってる専門家もいるようですけどね。やっぱりこの人は天才だなと思いますね。この松林図、すごい空間がありますよね、極めて建築的。これは、今現在僕が作りたいと思ってる建築ですね。

平沼:ご自身を歴史上に位置づけるとしたら。

北川原:歴史における…また難しいな。位置づけってさ、自分じゃ無理でしょ。(笑)

会場:(笑)

平沼:そうですか。(笑)

北川原:大体歴史なんていう大きな話の中に入るのかどうかも分からないし。

平沼:いやいや。

北川原:ちょっと付け足しですが、今これ映っている写真、上野公園界隈ですね。緑の所が上野ですね。そこに国立博物館とか、東京都美術館とか西洋美術館、コルビジェの西洋美術館とか、東京都文化会館など沢山の公共の文化施設があって、不忍池それから日本で一番古い動物園の上野動物園や芸大がありますね。この辺一帯全部足すと、80haですね。80haって言うと、皇居が90haですから、ものすごい広さですね。これをですね、さっきの芸術文化特区みたいな感じで、芸術文化都市としてもっとアピールしたいなっていうプロジェクトを今考えています。それでここ数年間にわたって調査をしてきていて、提案も考えたりしてきているんです。この地区に、いわゆる入場料を払って美術館とかコンサートホールとかね、お金を払って来てる人が一年間に1200万人。この統計が3、4年くらい前の統計ですから今もっと増えている。それからただ公園にぶらっと来ている人も同じくらいの数がいると思うんですね。そうすると2000万人くらいは来ていると思うんです。それで、例えばルーブル美術館が1700万人くらいで、スミソニアンが2700万人くらいですかね。この上野の芸術文化都市っていうのは音楽も美術もあって、教育系もある。さらには学士院とか芸術院もあって、実は、これほど多種多様な芸術文化系の施設がこれだけ集積してる場所は世界で他にないんですね。他の、ルーブルにしてもスミソニアンにしても、あるいは中国にしても、同じ種類の施設が集まっているんですね。上野は、いわゆる日本の文化の多様性の象徴かもしれないんです。これは、東京の田舎と言われてきた上野が世界的な芸術文化の名所になるんじゃないかと思って勝手に今考えています。

芦澤:このプロジェクトも大学と関連しているんですか?

北川原:大学としても文科省や文化庁と協力しながら、学長自ら上野の杜構想と言ってやってますけど、色んな形で考えてますね。

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