芦澤:屋根材そのものがカーボンファイバーでできているということですか?

北川原:全部じゃないんですけどね。大スパンを飛ばすところはカーボン製です。さらにその材料を軽いカーボンファイバーでつくるだけじゃなくて、構造もともかく軽くしようということで。張弦梁って要するに引張材で成り立っているんです。このロッドがずっと張り巡らされていて、これによって建物が支えられている。これは非常に上手くいって、オブアラップに構造解析をしてもらったんですが、大震災でも非常に被害が少なかったんですね。上に乗せていた機械室が非常に重かったのでそれが振られてかなり屋上が大きな被害を受けちゃったんですが、屋上以外に被害はなくてここに3,000人近い方々が避難されたんですね。しばらくしてから、隣の空地にプレハブの仮設住宅が出来てそっちへみんな移ることになったんですが、みんな大変な思いをして避難しているのにこういう所に住めるのか?って心配していたんですが、実際にこっちに移った人も嫌でビックパレットに戻ったりしちゃうんですね。ビックパレットは元々小さな街のような建築を作りたいというのが設計コンセプトだっんですが、ビックパレットに避難している人々の顔とか表情を見ていると本当に助け合って、出来るだけ笑顔を絶やさない。そういう雰囲気をつくりやすい空間、助け合いの出来る空間だったんだなぁって思いました。それでまた現在は平和ないつものビックパレットの姿に戻っています。
いくつかのね、形態をつくり出す手法っていう話なんだけど、簡単に説明しますね。一つの例としては今写っているステファヌ・マラルメという詩人の作ったサイコロをひと投げするっていう骰子一擲(とうしいってき)というタイトルの詩なんですけど、ページの中に文字が飛び交っているんですね。こう云う詩っていうのは19世紀末なんですけど、あの時代には全く考えられない表現だったんです。非常にスキャンダラスな話題を呼んだようなんですが、これが出版される前の原稿をマラヌメのお弟子さんのポール・ヴァレリーがその詩を見て、こんなのを世の中に出したら叩かれるだけだろう、と心配したという話が残っていますね。しかし、これがすごいんですね。文字と文字の間に空間があるんです。文字っていうのは色んな意味を持ってる訳ですが文字と文字の間の空間に意味がまた生まれてくるんですね。それが建築的なイメージを持っているなと感じた。ただ文字とその間の空間からでは形は生まれて来ないので、なんとか形を与えようと思った時に、現代美術の作家でマルセル・デュシャンていう20世紀の前半活躍したんですが、その人の「大ガラス」っていう作品。ガラスに絵が書かれていて、一見意味不明なんですが、ちゃんと説明があるんです。作品のタイトルは「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁さえも」というタイトルだったと思います。タイトルも意味不明ですね。要するにピカソのように観る絵画ではなくて考えさせる絵画っていう事でデュシャンは世界に影響を与えた人ですけども、そう言う意味でマラルメの詩とも共通している所があるなぁと。この不思議な形をちょっといろいろ僕なりに考えてですね、マスタープランを作りました。これは約7haの工業団地なんですけどね、山梨県にあるアリアっていう工業団地で。できあがったのが1995年のバブルのはじけた時だった。こういう建築物の群としては初めてグッドデザイン賞の金賞を頂いて、今日そのグッドデザイン賞の権威でいらっしゃる川崎先生がいらっしゃると思うんですけど、なんか照れくさい。(笑)ちょっと珍しい工業団地でして、工業団地の中に結婚式場とか教会とかいわゆる生産する工場ではない物が入っている異業種交流型工業団地の第一号だったんです。普通工業団地って言うと空き地が一杯あったりしますよね。大阪にもありますけど、ここは完全に埋まって空き地がない満杯状態でとても上手くいった。それがマラルメやデュシャンと直接は関係ないですが、ともかくマラルメとデュシャンを参照してつくったマスタープランを理事会でプレゼンテーションをしたんですがその時にマラルメとデュシャンの話を正直にしたんですよ。そしたら、理事会の人達はみんなこいつ何言ってんだ?みたいな顔をされて、なんか頭おかしいんじゃないかって顔でね。(笑)もちろんちゃんと実務的なレベルの話もしたわけですが。1時間くらいのプレゼンをして、どういう事になるかと思っていたら、その中の一人の理事の方が拍手をしてくださったんですよ。こう拍手してみんなも一応プレゼンやってくれたんだから拍手しなきゃいけないだろみたいな形でね、拍手してくれたんだけど、そしたら最初に拍手してくれた人がおっしゃったんだけど「よくわかんないけど、夢があるのは分かった」と。ともかく我々の工業団地は夢を創ろうって事でスタートしたんだからこれでもう進めてもらおうじゃないかって。時間もないからそうしよう!って事になった訳です。(笑)

芦澤:工業団地っていうのはそれぞれ違う企業が入っているんですか?

北川原:そうですね。

芦澤:それは北川原さんが全部選定された?

北川原:13社の企業が組合を作っていたんですよ。組合の理事長とその理事の方々、20人くらいが集まって、その場でプレゼンテーションをしました。それで決まって、責任重大なのでともかく必死にやっていわゆるマスタープラン、インフラの設計、光ファイバーや、共同溝の設計とか植栽の設計、公園の設計、緑地の設計から各本社や工場や全部、25人くらいのスタッフでもう総動員してやりましたね。

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