平沼:ちょっと会場からお2人くらい質問をとらせていただいてもよろしいでしょうか。

会場1:本日はありがとうございます。今日の昼ごろにSmartNewsで新国立劇場の案が白紙だとというニュースを見て、建築家としてコストをどうやって考えているのかをちょっとお聞きししたいなと思いました。安藤さんがザハの案を採用したときに、お金が決まっていたのにそれを超えた金額になってしまって、今は白紙になってしまったという状態になっているんですけども、建築家としてどういう風にお考えになっているのかをお聞きしたいのですが。

内藤:自分の建物についてですか?それとも新国立についてですか?

会場1:両方お聞かせ願います。

内藤:自分の建物について、答えることにしますね。すごく資本主義社会ですので、あらゆるものにお金が張り付いているわけです。特に「海の博物館」をやったときに、そのものがどのように運ばれてどの様に建てられるかというところまでやらないとコスト的には実現しなかったので、あらゆるプロセスをサーベイしていきました。だから僕の方がゼネコンよりもコストに関しては通じていた。だから全体をコントロールができたということはあると思います。新国立の話はできるだけ言うなと言われていて、僕は答えてもいいんですけども、最近Twitterでいろいろ流されて面倒くさいんですよね。都合のいい場所だけ切られて拡大されるので。本当は説明してもいいと思っています。ここで言えないような話もたくさんあります。建築家だったらわかるはずなので、建築家それぞれの頭で考えてみるのがいい。今日ここに来ている人が、鉄骨ってどのくらいかかるもんだろうとか、あの規模っていったいどうなんだろうとか。建築家っていうのは基本的にはインディペンデントな存在で、それぞれ皆さん技術のことも経済のことも分かっているわけですから、自身の頭で考えて、あれがどのくらい高いのか、どういう問題があるのかを人の意見に左右されないで考えてみると、とてもいいんじゃないかなと思います。僕は僕の頭で、こうかもしれないなと色々と考えていますけれども、皆さんは皆さんの頭の中で1回考えてみたらいいんじゃないかと思います。情報が少ない中で、高いとか安いとか言っていますけど、1回みんな自分のアタマで考えてみましょう、というのが今は一番健全なのかなと思います。

平沼:ありがとうございます。もう一方くらい。あ、どうぞ。

会場2:今日はどうも有り難うございました。普段、ホテルの設計をしているんですけれども、内藤先生のお気に入りのホテルがあれば教えてください。

内藤:なかなかいいホテルに泊まらないものですからね。どこっていうのはないです。逆に教えてほしいって感じですけども。ホテルに限らず、今の建築ってともかく天井低いですよね。特に都会のホテルは天井が低い。これはホテルっていうのはコストダウンしなきゃいけないので高さを詰めてくるんだけど、寝てて苦しいという感じがあります。それから私は、できるだけ窓が開くホテルにしてもらうようにしていまして、さらに可能ならば煙草が吸えるようにしてもらっています。良いホテル…最近はわからないですけど、二十年前のバリのアマンダリはいいと思いますね。あのころのアマンは本当によかった。あそこではゆっくりできました。

会場2:ありがとうございました。

平沼:最後に、これも月並みで申し訳ないんですけども、毎回来てもらう建築家の方々に格好良く一言いただくことにしていて、建築家ってどんな職業ですか。

内藤:特に若い諸君に言いたいんですけど、周りの大人とか情報とかに惑わさなければ、こんなにおもしろい仕事はないかもしれないと思っています。どうしてかと言うと、ここには経済も関わってくる、法律も関わってくる、それから人がいるっていうことを考えると人間心理も関わってくる。当然、技術も関わってくる。そういう交差点みたいな仕事は他にはないんですよ。ここをよく見ていくと、この時代に何が起きているかっていうことを見ることが出来る。時代の覗き窓みたいな感じで見れる。そんな仕事はないですよね。業種としてみると矛盾だらけなんだけど、本来のピュアな意味での建築家っていうのは、人の暮らしの傍らにあって、社会の色んなモノがそこに流れ込んでくる、そういうものをどう受け止めるか、どうコントロールするかっていうおもしろい仕事だと僕は思っています。

平沼:今日はどうもありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

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