芦澤:屋根がすごく特徴的だと思うんですけど、あの屋根の造形ってどう決めていかれたんでしょう?

内藤:当初はね、こんなんじゃなかった。あの「安曇野ちひろ美術館」のような切妻屋根のときがあったんですよ。「海の美術館」でのつくり方の延長でやろうと思っていた時期もありましたね。1つ作って、これかな、ってある程度確信が持てたものの延長で物を作っていくやり方がありますよね。そのほうが安全だとは思うんだけど、どうもですね、僕は菊竹さんの所に居たときに身に付いた破壊癖があって。ある程度できた物は壊したい、で全然違う作り方にしようという方向へ向かう。

平沼:はい

内藤:「海の美術館」の時は自然に対してシェルターをどうやって作るかっていう話なんですけど、この時は自然にもうちょっと溶けるような形で、自然と一緒にエイジングするような、そういうものをやりたいと思ったんですよね。その理由は、牧野富太郎という人を知るにつれて、そのすごさが分かってきたところにあります。今日は建築関係が多いので、あんまりご存じじゃないかもしれないですけど、実にすごい天才なんですよ。明治以降、5〜10人の中に入る天才。あの牧野さんの色々な原画を見たり、蔵書の種類を見たり、牧野さんについて勉強していくにつれて、やっぱりもっと自然に近づく建築の作り方はないかって、思い始めたんです。特に牧野さんがこよなく愛した五台山の地形に寄り添うような在り方はないか、ということでこんな形になったわけです。

平沼:僕たち、内藤先生がどういう風に、

内藤:堅苦しいから、「先生」はやめよう。「さん」づけがいいな。

平沼:はい。(笑)内藤さんがどうやって設計を進められていくか、そういった所をあまり見たことないんですけど、具体的にどうやってやっておられるんですか?

内藤:今日も元スタッフが一人会場にいますけど、事務所では僕が「こうしたい」っていうのはほとんど言わないですね。建築家としては、極めて少ないとおもいます。こんなカタチにしたいとか、スケッチ描いてこういう風にしたいとか、あんまり言わないですね。

芦澤:よくメディアで、赤ペンで図面に書かれているのは何度か見させてもらっているんですけど、結構図面にガンガン入れられていて、それでどんどん構築されるのかなと思ったんですけど。

内藤:もちろんそういう風にやるんですけども、赤を入れるほとんどは、技術的にこういう風にした方がいいんじゃないのとか、プランニングでこうした方がもっといい平面になるとか、そういうアプローチの仕方なんですよね。だから局面によって違いますけど、スタッフとの打ち合わせはほとんど技術指導みたいな時もあるし、場合によっては、横からみているとどっちが偉いかわからないような打ち合わせ。つまりスタッフのほうに色々アイディアがあって、それはこういう風に解決した方がいいのかなって、こういう方法があるかなって、僕が赤ペンで描く。そうすると、うちのスタッフはうーんと言って、もうひとつですね、なんて言ったりする。そういう風景もあったりします。逆にスタッフが、建築の基本的なことをないがしろにして、アイディアだけに走るときは怒るっていうことはあると思います。あの赤ペンはそういうことですね。

芦澤:じゃあ結構アイディアをドライブさせるのはスタッフ自身にある程度任せていらっしゃる感じですか?

内藤:共同作業ですね。つまり経験値が違う人間が向き合っている。失敗例を踏まえて色々経験値があって、片一方は若くて経験値がない人間がいて、この二人が共同作業をするのだから、それぞれ違うアイディア、違う情報をテーブルの上に置いて議論するということだと思うんですよね。今、富山の県立美術館をやっているんですけど、少し面白いやり方をしていて、できるだけスケッチを描かないで、どこまで言葉で設計できるか、みたいなことをやっています。プラクティカルなお金の話だとか技術の話、技術的なことはやりとりしますけど。空間のイメージについて、うちのスタッフに、彼女をつれて美術館に行って帰るまでを全部言葉にして書かせるんですよ。これがなかなか面白い。10枚くらいびっしり書かれていて、何時何分に扉に入って、階段を上がって…そういう言葉をずーっと共有していく。こんな形にしたいとかほとんど言わない。ただ、こういう場所をつくりたいっていう話を僕とスタッフが共有していれれば、何の問題もない。

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