つぎは「島根県芸術文化センター」です。

内藤:これもわかりにくい建物ですよね。この写真もね、なんでこんなつまんない外観しか撮れないと思ったんだけど、何人ものカメラマンが撮ってもうまく撮れないんだよね。

芦澤:これは分棟にされて、周囲の集落とかとボリュームを合わせようとか、そういう意図は。あるんでしょうか。

内藤:この時は、僕が大学に勤めることになっていて、大きい仕事も終わりかけていて、事務所がつぶれる寸前だったので、ひとつぐらいプロジェクトをどうしてもとらなきゃなって思っていたころです。指名に近い格好だったんですけど、応募する人たちを見ると、巨匠ばっかりだったんですよ。僕は最若年もいいところだった。だから、どうするかなあとずいぶん悩んだ。これはできるだけフラットに作りたいと思ったんです。他の人はみんなだいたい二層に重ねたりしていた。この建物の19,000uは、ほとんど平土間でいっている。県立の美術館と、県立のオーディトリアムが組み合わさっている建物なので、平面は極めて複雑ですから、それらをまとめ上げる強い広場をつくりたいと思った。45m角の強い広場を作って、複雑な機能は周りに配置すればいい。基本的にはそうやってできた建物なんです。大量の石州瓦を使っています。出雲に住んでいる友人の江角さんっていう人と一緒に組んで応募したんですけど、江角さんは古民家の改修をやっていて、それを見せてもらったんですね。100年前位の瓦を外して、置いておいて、また使っているんですね。100年前くらいの瓦がほとんど新品と変わらないんですよ。ということは、この瓦を使うと2〜300年はいくのかなぁと思い立ったわけです。ちょうど中国大陸が、近代化して、酸性雨が島根あたりを覆うようになっていきていた。酸性雨と酸性雪がこの地方をおそっているという話を聞いたので、高い耐久性を得ようと思うと僕らは、手持ちの新しい素材で100年とか考えると、全然自信がないわけです。それにふさわしい材料がない。それで建物を、いわゆるフロックコートみたいに覆ったらどうかというのが、この建物の基本的な考え方です。

芦澤:ローカルにある技術と、現代的な技術をうまくハイブリットされているように思えるんですけど。技術は、どんどん進化していると思うんです。そのへん、どう捉えられていらっしゃいますかね。あまり信じられていらっしゃらないのか。

内藤:全然信じてないですね。(笑)技術的には、退化しています。基本的には。これは建築をやっている皆さん、わかってらっしゃると思っているんですけど。技術的には退化しているんですよ。一見、先端的にいっているみたいだけど、実際には相当後退していると思っています。地方の街の地場の材料が大事って言うと、ご当地ソング歌っているみたいに、その街で歌い込まれている歌をカラオケで歌っているみたいな妙な気分になる。それは嫌なんです。基本的に何がやりたいかっていうと、その人たちが当たり前だと思っていて、気がついていない、世界に誇れるような技術があれば、それをシェイプアップして、リノベーションして使いたいと思っているんです。

芦澤:なるほど。

内藤:そのことによって、そこに住んでいる人が、そこを中心に世界全体をみられるようになるというのが、僕の理想なんです。なかなか今仕事をしていても地方都市は自信を失っていて、都市よりも県庁所在地の方が偉い、県庁所在地より東京の方が偉い、東京よりニューヨークの方が偉い。そういう価値観で世界全体を見ているんですよね。そうじゃなくて、その場所が世界の中心じゃないかって見れないか。そのために建築ができることは、その場の固有性の本当にすばらしいものを引っ張り出して、それを建築という形でわかりやすく提示する、って言うのが建築の大きな役割の一つとしてあると思うんです。でも、そういうものが見当たらないこともある。

芦澤:場所によってはっていうことですよね。

内藤:でも、ない場合には、そういうものをなんとしても見つけ出したいと思っています。

芦澤:そうしますと、今度、逆に、大都市、いわゆる東京ですとか、大阪も大都市と言えると思うんですけど、そういう都市で内藤さんがやられるときには、どのような、アプローチをされるんでしょう。

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