平沼:はい。最後に、安曇野市庁舎を。

内藤:真面目な建物ですよ。(笑)
これはね、ホント真面目な建物でコストが安いんですよ。コストが安いけど、上等に見えるので市長さんが困っているんですね。議会にはともかくローコストでやりますって言って、でき上がりがいいもんだから、お前金かけただろって言われていて。(笑)これのチャレンジングなところは、PCでポストテンションを使っていて、さらに免震でやっています。非常に高度な技術を使っている。それでいて、非常にディテール密度が濃い。僕の中の自己採点では非常に点の高い建物です。使われ方も非常に良いし、近くまで行ったらぜひ見てもらいたいと思うんです。この後にでてくる草薙体育館では大空間をやっていますが、草薙の建物は分かりやすいんですけれども、草薙体育館的な建物のあり方と、この安曇野の市役所のあり方っていうのはイーブンで僕の中にあります。

平沼:ちょっと質問を飛ばして、こっちですね。

内藤:こちらも3.11以降の建物で、人の居場所をどうやってつくるかっていう、その空気の思い描いた質は同じようなものだと思っています。そういう場所ができたんじゃないかなとも思っています。

平沼:内藤さんの個性ってご自身でどう思われていますか?

内藤:なくてもいいと思うんですよね。建築家が何かやったっていうのは、死んで10年もしたらみんな忘れていくので。ただひたすら、空間を思い描く、それからそれをうちのスタッフと共有する、それからもうちょっと言うと、ゼネコンや現場のスタッフたちとも共有してつくれるかどうかっていう考え方。建築家の名前なんかよりはるかに大事なのは、この時代の建築をつくり上げる人たちがどういうものをイメージしたかっていうのが一番大事だと思うんですね。僕自身の自己矛盾を言うと、とはいえ、コンペに勝たなければいけないんですよね。個人が何か分かりやすいものを提示しなければいけないという構図がある。これは半ば拷問に近くてね、止む無くやっているところがあるんですよ。だけど本当にやりたいことはそうじゃないということですね。

芦澤:内藤さんがさきほどもおっしゃられていましたけど、空気を自分で作られる、それは各作品に漂っている風に感じますね。

内藤:アアルトの建物をいいと思っているんです。アアルトの建物を見て回っているときに、アアルトの博物館があって、そこで模型を見てかっこいいなとか思うと、実物見に行くとあんまり良くないんですよね。こんなもの本当に見に行くのっていうようなものが素晴らしかったりします。一番の顕著な例が「マイレア邸」です。写真で見ても外観で見ても出来損ないなんじゃないかとか、平面で見ても全然おもしろくないし、だけど行ってみたら内部空間が素晴らしかったですね。僕はこれはね、アアルトが空間をイメージする、空間を作りたいということを強く思うと、それを組み上げる形はすごく後退するっていうか、崩れると思うんですよ。逆に形から入ると空間は死んでいるという矛盾ですね。アアルトの本当のいいものは形態的には破綻していると思っているんです。良ければ良いだけ形態が破綻している。大変なことなんですよ、空間をイメージするっていうのは。さっき言った想像力、いろんなことに想像力を広げなきゃいけないし、2次元の平面を手掛かりにそこにどういう3次元の空間をもたらすのかというテーマでもあるわけですよね。ひょっとしたらそこにどういう時間が流れるのかということも考えなきゃいけないとなると4次元の話になる。それを人間の頭の中でイメージして、建築に必要な様々なパーツをそれに引き寄せていくには、ものすごいエネルギーが要るんだと思います。僕もそのエネルギーがだんだんなくなってくると、形がもっとわかりやすくなって、コンペにも勝ちやすくなって、仕事がたくさんきて、ろくでもない建物をたくさんつくってお金は儲かるという、そういうステージに入っていくのかもしれないですけどね。まだそこには行ってないと思うけど。

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