平沼:なるほど。僕たちは建築の設計をしていて、結局のところものづくりが好きで、描いている事がつくられていくと楽しい訳ですよね? 依頼を頂いてそれを表現していくような職能を持っていますから、それでいいんだと思って信じてやってきたものの、40代位になるとだんだん見えてくる訳ですよ、こんな設計をするだけでいいのか?と悩むんですよね。そんな事って僕が聞くのも変なんですけど、ニューエイジとしてどう見ていますか?

藤村:そういう悩みを自分はフリーペーパーにぶつけて、周りにひたすら問いかけるというのをやっていましたが、そういう悩みがなくなると建築家は作家でなくなってただの設計屋になってしまう。やっぱり「問いを立てる」というのは非常に重要ですよね。それが意外と難しくて何が問いだかよく分からないっていうのが一番不安なんですけども、そういう時期がおそらく建築家にとっての30代ではないかと思います。同世代でよく集まって議論して、そのうちにみんな「郊外」とか「シェア」とか「地域性」とか、それぞれのテーマを見つけて行きましたが、最初の頃は「お前は一体何がやりたいんだ」とお互い問いつめ合っているだけという(笑)。

平沼:あははは。(笑)

藤村:2009年頃は関西の方に足繁く通っていたので、家成さんとか垣内さんとか香川さんとか、皆に聞いてまわる訳ですよ。家成さんと僕も、最初の頃はしどろもどろでしたけどアップルストアでシンポジウムをしたり。家成さんもだんだんストーリーテーリングが上手くなって、「阪神淡路大震災のあと、自分は焼け跡の中に立ち上がる建築に法律よりも強い物を感じた」みたいな、そういうぐっとくる感じの語りをされるようになった。そういうのはお互い聞き合っているとどんどん出てきます。だから最初は内輪でもいいので、定期的な議論の場をつくることがとても大事だと思います。

平沼:色んな分野から影響を受けられている気がするんですけど、藤村さんにとって、あっこれだなっていうものはありますか。

藤村:すごく影響を受けているのは東浩紀さんだと思うんですね。東浩紀さんが『存在論的、郵便的』でデビューされたのが、僕が建築を始めるか始めないかくらいだったんですけれど、やっぱり東さんが美術の村上隆さんとかと組んで議論して、「スーパーフラット」とか色んなキーワードを出されていて。東さんの話を聞くと、今起こっている新しい現象を全部説明しているような感じがしてすごく刺激を受けたんですね。
それからちょっと後になってからですけども、私たちが東さんを建築学会のシンポジウムにお呼びする事が出来て、そこから色々交流させて頂く事になった。それで思想とか社会学の人達との交流が始まって、ますます刺激を受けるようになりました。
他方で、2008年から大学で非常勤講師をさせて頂くようになりまして、設計を教えるようになりました。先ほど自分が実務で発見した「超線形プロセス」というものを少しずつ学生にも伝えようと。それは自分がそうだったように、建築を勉強し始めた学生というのは建築の考え方が分からない。そういう人達には自分が習った通りに教えればいいと思ったんです。
例えばブリティッシュ・コロンビア大学という大学院大学のスタジオを持たせて頂いて、その後首都大とか理科大とか色んな所で教えてさせて頂くんですが、やり方は同じで、同じ縮尺で模型を作って説明をしていくということをひたすらやっていく。その後東洋大学に専任講師として着任して、最初の内は大勢の先生で教えるので、その先生方にいろいろ共有してもらったりして、若い人もいればベテランの先生もいる中で建築をチームで教えていく事に応用していきました。
学生達に建築の組み立て方を教えていって、見ているとやっぱり上手い人と下手な人っているんだなってことがよく分かるので、そういう事を見ながら、建築ってこうやって組み立てていくんだなということも分かっていく訳です。
もう一つ思った事は、それをどう評価したらいいかということですね。やっぱり今の設計教育のなかでは建築の講評って凄く感覚的なので、講評会で良いねとか悪いねとか言うんですけど、何が良いか言わない。原さんじゃないですけど「非ず非ず」の世界で、これじゃないあれじゃないと言うんですけど、じゃあなんですかって聞くとそんな事は自分で考えろ、と怒られる(笑)。自分は学生の頃はそういう事で悩んでいたので、もっと構築的でフェアに、こうなんだっていう事を教えたいと思いました。
一つは講評会をオープンにするという事ですね。目の前でちゃんと理由を付けて選んでいって、プロセス模型を全部並べて。やっぱり、プロセスが綺麗だとプロダクトも綺麗なんですよ。そういう関係が目に見える事と、順位付けに教員だけじゃなくて学生にも参加してもらって。教員投票と学生投票を並べるというのも実践しています。講評会は選ばれないとみんな寝ちゃう訳ですが、自分も先生と一緒にどれかを選ぶってなるとよく見るようになりますし、次はこうやればいいんだっていう事も分かる訳ですね。
こういうことをやっているうちに、これが社会の縮図じゃないかなって思うようになりました。市民だって知らないところでいつの間にか順位が決まっていて選んだ理由も分からなければ、当然関心を持たない訳ですけども、目の前でちゃんと自分も評価に参加できて、専門家の議論が分かりやすく展開されていれば、なるほどそういう事で建築は選ばれるんだなって事が分かって関心を持つようになりますよ。

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