平沼:なるほどなぁ。藤村さんにとって建築とはなんですか? 

藤村:この後のスライドでそういう話が出来ると思うんですけれども、人や社会を「動かすこと」が建築の本質だと思っています。
そう思えるようになるまでには紆余曲折があって、最初は、実務をやっているうちにさっきの「超線形プロセス」を試しながら実践するようになって、自分はなんとなく面白い事をやっている気がするんですけども、それがどう面白いのかが、あまり説明がつかないという時に、それを説明できるようになりたいと思って、後輩と勉強会を始めたんですね。

平沼:うん。

藤村:隈事務所にいたり、日建設計に勤めていたり、坂倉事務所にいたりというメンバーで、2005年の夏くらいから勉強会を始めました。事務所を立ち上げたばかりの頃です。
1年くらい経って彼らと新聞を作ろうと言って、『ROUNDABOUT JOURNAL』というフリーペーパーをつくりました。もともと2002年から社会学の山崎泰寛さんと一緒に同じ名前のブログをやっていたんですが、山崎さんとグラフィックデザイナーの刈谷さんにも加わってもらって、2007年に創刊号が出来たんです。1995年以降に時代が変わって何かが新しくなったっていうのは感じているんですけど、なにがどう変わったのかが分からないので、とりあえず「1995年の建築」というタイトルをつけて、世代論をやろうと思ったんです。

平沼:なるほど。

藤村:同世代だったら同じ感覚をシェアしているはずで、その人達にその感覚を言葉にしてもらおうという事で、近い世代の人達を集めて、考えている事をどんどん出してもらいました。
創刊号では松川昌平さんと田中浩也さんと一緒に「情報と建築」というテーマで巻頭対談をやったんですが、当時、情報と建築なんてテーマは「90年代の話でしょう」という感じで、コンピューターアルゴリズムなんてお蔵入りしたかのような話題だったと思います。2000年代の頃にはもう誰もそんなは話していなかったんですけれども、あれは本当はもっと面白い議論だったはずだから、もっと引っ張り出さなきゃと思いました。
例えば、その頃石上純也さんが設計を進めていて話題になっていた「KAIT工房」は、303本のフラットバーを並べるプラグインを特別に作っていたということを知っていたので、それを制作した徳山知永くんという人をフィーチャーして紹介をしたり。長坂常さんのデジタルファブリケーションを使って組み立てるインテリアの作品があったんですけど、長坂さんというと、マテリアルのイメージがあるんですけど、こっちのデジタルファブリケーションのプロジェクトも面白いんじゃないかと、そういう事を取り出していったりして。
第2号は「1995年以後の都市」という特集タイトルで、都市の方もいろいろ変わったはずだといって最初に巻頭で議論したのが社会学の南後由和さんでした。この時南後さんに、世の中が変わったのはいいとして、それに乗っかって否定するのか肯定するのかと問われて、いやそうじゃなくて工学主義というのは批判的に実践するべきだっていう事を主張したんです。それが起点になって後で『批判的工学主義の建築』という本を書くんですけど、そういう言葉なんかをこういう新聞でつくっていたんです。
第1号の建築論特集と、2号の都市論特集が両A面みたいになっていて、それぞれが縦組みと横組みでレイアウトされて、めくっていくと中央で出会うというストーリーにしていました。そういうグラフィックのコンセプトは、デザイナーの刈谷さんが考えてくれました。建築論と都市論をどう繋げられるのかって、この時はまだこういうグラフィックの遊びでしか言えなかったんですけども、なんか繋がっているはずだと。それは95年に始まったはずだと。そんな事だけを最初の内は議論していました。
それからしばらくのあいだ、同じメンバーで毎週日曜日の午前中に集まって2時間だけ議論してランチ食べて解散するっていうのをずっとやっていたんです。内輪ノリで好きなようにつくってるから、そのノリが楽しかったんですが、これを少しずつイベントにして発信するようになるんですね。
なかでも2008年から始まった「LIVE ROUNDABOUT JOURNAL」というイベントは画期的でした。まず若い建築家の人達に集まってもらってレクチュアをしてもらうんですね。永山さんとか中山さんとか、皆に今考えてる事を短めに話してもらって、それをその場で文字に起こして行く。編集部が会場の後ろの方にあって、ICレコーダーでレコーディングしたものを学生チームで文字に起こして、その場で山崎さんと刈谷さんが編集をして見出しをつけてグラフィックにしてそれを校正する。それを短いタイムサイクルで工程を組んでやっていくんですが、建築の人って図面作業を訓練しているので、同じフォーマットでひとつのファイルを作って行ったり、ひたすら反復するのって比較的得意ですよね。だからそういう建築学生のスキルを活かすような感じでまとめて、レクチュアが終わって1時間くらい経って、もうちょっと待たせる時もありましたけど、最後に会場にある白黒コピーで両面印刷して会場に来た人に見てもらうということをやりました。

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