原 :南米で作った実験住宅がどういった住居かっていうと、両親の棟と子供の棟を同時に作って、家族の生活域が、一人ずつ一つの棟もっているという理念で作っている。ディスクリート(descrete)っていう概念が支えになっている。昔は住居に都市を埋蔵するっていった時に、その都市はどういう都市ですかって言われたら、一言で答えられなかった。これはディスクリートっていう概念なんだよって言っても、その頃そういう建築を自分でたくさん作っているわけじゃなかったから。集落でいう離散型住居ってみんなバラバラだって意味なんだけど、英語ではバラバラっていう言葉が悪い言葉で使われている。そうじゃないんじゃないか? 今みんなバラバラになろうとしている象徴として、コンピュータがでてきたり電話ができたり、インターネットもできたりするわけじゃない? ギリシャの哲学者のアナクサゴラスが言った言葉なんだけど、万物の源は混合にある、離合集散にあるって言うんだ。僕はね、その考えが正しいと思っている。だからいろんなものが集まったり散ったりする、そういう運動自体は悪くない。
 先ほど建築界はそんなに負けてないぞって言っていたけど、やっぱりコンピュータとかインターネットに押され気味で、これはもうだめだっていうときもあるわけだよね。都市を言う時、コンピュータのようなとかを言うんじゃなくて概念を先取りして対抗しないとね。例えばある建築を設計するとなった時に、カタログをバッーと持ってこられてコレとコレで全部作りなさいと。カタログはどこから来てるかっていったら、コンピュータにある情報じゃないですか。要するに、コンピュータの代役みたいなのを、建築家がやらされて従来の設計とは全然違う時代になっちゃったというのは打破できないわけですよ。そこはね、僕らがもう一回頑張って、取り組んでいかないといけない。真剣になって、建築は終わっちまうんじゃないか?って言う危機感を持ちながら。
 要するに、「様相」という言葉がある。機能って言葉をみんな使いすぎて、建築が機能的にできているのは嘘じゃないかって若い頃から思っていた。だから、なんと言ったらいいのか、「様相」って言ったらいいのかなと思ったわけです。

平沼:なるほど。それがmodality。

原 :そう「modality」ですが、それぞれの様相と言ってもいいし様態でもよくて、それを「mode」と言われております。「mode」が変わる事、単純にいうと、朝が来て、やがて昼になって夕方になって夜になる、という「mode」変化。様子が違うじゃないですか、あたりの気配が違うわけ。それでいうと春夏秋冬にも言えます。そういうような「mode」の違いのほうが重要なんじゃないの?建築には、と考えてきました。機能がなんと…いや機能がダメだっていうわけじゃないよ。機能という前に何かあるんじゃないか、とそういう考え方をしていて「mode」の変化こそ日本の建築なのではないか。それには理由があって。

平沼:はい。

原 :ヨーロッパのすごい建築から全て習った、学んだって言っていいし、尊敬しているけども、東洋の事はすごく大事じゃないかなと思って。単純に弁証法っていうのがあって、ヨーロッパではそのおかげでギリシャ時代、科学を展開する事ができた。その恩恵を味わって、我々は勉強させてもらって生きてきた。しかし東洋にも「非ず非ず」っていう重要な概念がある。弁証法っていうのは単純な図式で言えば、正反合。トム・ヨークはそういう状況をわかっていて、とにかく弁証法と対決しなくてはいけないんじゃないかって思っている。『Kid A』の中の21世紀を代表する曲っていうのは『Everything in Its Right Place』です。全てのものは正しい場所にある。間違った場所にあるものは正しい場所に戻れるだろうという考え方。この確信がヨーロッパの一番すごいところで、物事には本来、在るべき位置がある。これはね、比喩的に、星は天空にある事と同じ様に、あなたは今何をすべきか、発言すべきか、という事にしてもその場における正しい位置、その場所の事をトポスと言うんだけども。そういう事をトム・ヨークは考えていて、それで『Everything in Its Right Place』は、21世紀に入ってからの曲で最高の曲になるわけですよ。さらに付け加えて言うと、この歌は御経なんだよ。声明の世界っていうのがあって、ヨーロッパでは一般的にはグレゴリアン・チャント。色んな宗教、仏教とかイスラム教とかでも御経があるでしょ? そういうものを基礎にしてつくるとどういうロックができるかっていうのを彼は練り上げて、半弁証法的なものをつくった。だからすごいんだよ。トム・ヨークは弁証法と「非ず非ずを同時に理解していた。それを一つの曲にしたんだよ。それが、五分足らずの曲でね。さらに、アーケイドファイアもすごく分かって、トム・ヨークがやっているような事、それは一体なんなのかという事をわかる。分かるって事こそが非常に重要な事なんですよね。
 それで様相の話に帰ってくると、「mode change」は、様相が変わっていく事。「modification」と「modificatio(ラテン語)」は変化一般を指す、様相の変化じゃなしに。それはスピノザが言った事です。人間っていうのも「modification」だけども。要するに様相が変わるわけ。今や年寄りになってあなたたちは若者で。世代的にどのくらい違うか昨日計算してみたんです。
 それでですね、みなさん是非知っておいていただきたいと思うんですけど、昔にもすごい建築家がおりまして堀口捨己とか、大先輩の山田守とか、それから岸田日出刀とか。そういう人たち。岸田日出刀先生とは定年される最後にお会いしました。僕はその方たちに最後に会った人で、あなたたちと僕はその差なんですよね。

平沼:はい。そうなんです。本当に貴重な機会をいただいています。

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