芦澤:原先生はいつから数学に興味を持たれたのですか。建築をやられる前からですか。

原 :そうですね、数学は好き。でもこの間、高校の先生に会ってきたんだけど、その先生が東工大を出た先生でね。その先生のもとで数学が得意になったくらいです。だから今の僕の実力なんてね、機会あるたびに誤解を解くように言っているんだけど、数学科を志望して、入ろうとした2年半か3年ぐらい大学でやったくらいの力しか僕にはないのです。

平沼:いや、そんな…。

原 :いやいや、ほんと。その数学の研究をやっていて、僕が発見した事はあんまりないんです。厳密に言うと、1つくらいかな。でも大した事ないんですよ。だからものすごく勉強するんです。でも今は、すぐ忘れちゃうからさぁ。麻雀の点数の足し算で、みんなの合計やってみても一度も合わない人がさぁ、なんで算数も出来ないのに、数学出来る?

平沼:(笑)

原 :数学っていうのはきっとそういうものでもないんですよね。つまり人間があんまり考えた事のない事をものすごく考える。つまりそれが幾何学。例えば、あの梅田スカイビルでも実践してみた。空中庭園に孔が開いてるじゃないですか。孔に大事な幾何学があるっていう事は大学時代で学んでいたから、それを展開しようと思いました。有孔体の理論ですね。それも間違ってはいないと思いますが、それだけじゃないわけです。もっと凄く高度に進んだ数学がいっぱいあって、使えるところは出来るだけ実践で紹介してから死のうかな、という事を思っていました。だから、『空間の文法』っていう本を書こうと思っているのはそういう意味なんです。だけども、数学界じゃない建築界で、数学を理解するというのは世界中を見てもちょっと無理じゃないかなぁと思う。そんな人はいないんじゃないかな。

芦澤:建築家の頭ではついて行かないって事ですか?

原 :いやいや、関心を持っていない。それからそういう教育をしていない。でも、それだから日本の教育は、僕は良いと思っているのです。理学的にしない方が良い。皆、工学的な発想を持っていて、数学的な事を理解する人がいない。でも出てこないとマズイんじゃないかな。それは形の問題じゃないんだよね。現象としての建築を唱える方法を、幾何学が用意していてくれる。

平沼:建築という現象を唱える方法を幾何学は用意している。

原 :そうだね。本当を言うとね、幾つか書き留めておきたいと思うけれども、本当に理解できるかっていうと、理解できないと思うことが、いっぱいあるわけです。きっとこういう難問は解決されているんじゃないかと、いろんな事を考えるのです。例えば、どういう難問かっていうと、今の世の中の様々な価値というのは、要するにお金で図れるっていう一元的な世界をつくっているでしょ。ものすごく単純な空間で。例えば勝負の世界、スポーツだってお金で換算すると上手く合ってしまうとかね。 そういうような世の中になっているのはおかしいんじゃないかな。僕が後悔しているのは、そういう時代とそういう世界に生まれて、喫茶店に席は置いておいたとしても、デモに参加していた。

平沼:そんな時代にいた原先生は、どうして建築をされようと思われたのですか?

原 :それはですね。当時のいろんな世界へ出て、デモを毎日やっているような時代に、芸術と数学を同時に成立する世界で、挑戦をしてみたかったのです。大学では駒場寮に入っていたんだけど、そこの寮に行っている皆が「お前は建築に行くのが一番いい」と言うわけ。もう長い間そう言われていて。彼らが言い続けてくれたのがあったんではないかと思います。

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