会場1:なるほど…。それは個人住宅であろうが公共の建築であろうが、その流れはそのまま置いとくとヤバそうな感じがすごく…。
山本:非常にマズいと思います。今の日本ってのは、これはハンナ・アレントの話と一緒なっちゃうんだけど、一人一人の人たちはみんな同じ人である、国家のために同じ働きを人で入れ替え可能である、その方が様々な仕事がうまくいきますよって意見の人が一方でいますよね。そう言う人は、非常に優れた人がいるとしても、その優れた人が標準的な仕事の中で埋もれてっちゃう仕組みをつくったほうが、製品にばらつきがないし良い製品ができると思っている。
会場1:部品みたいですね。
山本:部品ですよ。
会場1:それは恐ろしいですよね。
山本:その部品みたいなシステムにしていくっていうのが、今の日本です。派遣がそうじゃないですか。派遣っていうのはいつでも入れ替え可能なんですよ。
会場1:プレハブと一緒ですよね。そこだけを取り替えてやればいい。
山本:そうそう、人間も入れ替え可能だと思ってる。時給いくらもらえれば、それで働けばいいと思ってる。時給1000円が1200円になったらそれで喜ぶと思ってる。そうじゃなくて、アレントが言っているのは、あなたは如何に良く生きたか、あなたは素晴らしいっていうことをちゃんと記憶するシステムをつくれって言うんですね。あなたは素晴らしいよ、十分に良く生きましたよって。でも今の官僚制という統治システムは、そういう記憶を残すようなシステムでは無くなっていっている訳ですよね。それに代わるシステムが僕が言っている地域社会圏で、地域の中で、自分たちがお互いに生きているっていう記憶を、お互いに記憶できるようなシステムをつくるためには、あんまり大きい単位じゃなくて、なんかそういうのをつくると良いんだけどなあと思っています。
会場1:どうもありがとうございました。
平沼:ありがとうございます。学生時代に優秀だったり個性豊かだった人達が、就活で競い合い、組織設計事務所であったり、ゼネコンに入って5年務めると、人が変わったように個性を失っている人たちが増えたような気がします。
山本:会社に勤めようとするからですよ。会社は優秀な人材を求めているわけでしょ?なら会社にとっての優秀な人材になろうとするでしょ。
平沼:僕たちくらいまでの世代の人たちは、会社という企業がもっと従業員に頼ってくれたというのか、個性を活かしてくれていた気がします。つまりその個性に合わせた使い方や素質を伸ばしてくれていた気がします。
山本:今、ハウスメーカーに勤める人が多いでしょ。横浜国大でも、卒業したすごく優秀な女性がいたんだけど、そいつがハウスメーカー入っちゃってさ、ほんと愕然としたんだけど。まぁ、3年、4年でやめちゃいましたけどね。ハウスメーカーの人がいたらすみません(笑)。やっぱり自分のとこの商品を売ろうとするので、ある商品の規格の中で設計しなきゃいけないし、そういう規格が如何に良いかってことをお客さんに説明しなくちゃいけないんですよね。そうするとやっぱり、自分自身が規格化されていっちゃうんですよね。ハウスメーカーだけじゃないですよ、もちろん。世の中のシステム全体がそうなってきているんです。そのように、みんな取替え可能であるような人間をつくりたいわけですよ。だから、前は良かったってことよりも、ますますそういうことになっている。僕の意見は、勤めるな、と。会社にとって役に立つ人間になんかになるなと。その人は会社のためにしか役に立たない人になっちゃうから。僕は勤めていたことないんですよね。だから勧めるわけにもいかないんだけど。もちろん勤めてもいいけど、仕事をおぼえたらすぐやめればいいんです。僕の事務所のスタッフはみんなそうですよ。むしろ自分たちで、どうやったら仕事が出来るかってのを、建築家ってのはそういうことが出来る仕事でもあるので、何人かと一緒に少しでもいいから仕事を自分たちでしてくとね。会社ではなくて、地域社会の人のために設計することを考えた方がいいと思います。平沼さんや芦澤さんだってそうでしょ?
平沼:そう、そうですね。
AAF:すみません。そろそろお時間です。
平沼:もう一人だけ短いご質問をいいですか?どうぞ、はい。短くしてください。(苦笑)
会場2:山本先生は、いつもずっと挑戦を続けているように見えています。
心掛けていることを教えて頂けたら嬉しいです。
山本:たまたま挑戦するようになっちゃうんですよね。例えば市長が変わって仕事が続かなくなっちゃったりとか、そういうことがあるので、はいそうですかって言えないじゃない。そうするとなぜ私ではダメなのかって話になりますよね。そういう話になって行けば行くほど挑戦しているかのようになる。だから挑戦するような感じになっちゃうんだよね。まぁ心がけていることというと、特にないかな。ただ、「違反していませんか?」っていわれるのはちょっと嫌ですね。コンペの審査員をやる時も、コンペに応募する時も、絶対に同じ条件で戦いたいと思うし、コンペの審査員をやる時は、絶対に誰かを贔屓したりそういうことがないようにしたいと思う。それが見えるようにしたいと思うしね。だから、それは注意をしていますけどね。
芦澤:正々堂々というかんじですね。
山本:正々堂々か。そういう社会がいいですよね。
会場2:ありがとうございます。
平沼:ありがとうございます。
最後に月並みな質問で恐縮ですが、みなさんに同じ質問をお聞きしています。建築家ってどんな職業ですか?
山本:自分で思っていることを言える。やっぱり建築家っていうのはそういうところにいると思うんですよね。勤めていると偉くなればなるほどきっと、言いにくくなっちゃうだろうし、下っ端は下っ端で言いにくいだろうし。自分の思ってることが言えるし、やれるってことは、ものをつくる人のある種の特権かもしれないと思う。できるだけ自由に仕事をしたいっていうのはありますね。
平沼:時間が相当長くなってしまいましたが、今日はどうもありがとうございました。
山本:ありがとうございました。
芦澤:今日は長時間ありがとうございました。 |