平沼:芦澤さんご質問、どうですか。

芦澤:まず先程のあのパブリックスペースっていうのは、みなさん使われていらっしゃるんでしょうか。

山本:去年の冬にできたばっかりなんですよ。それでとにかく一回行ってみたいと思っているんだけど、実際どうなっているかまだ分からないんですね。

芦澤:私の印象としては、山本先生は集合住宅をずっとやり続けられていらっしゃるイメージがあります。先程地域社会圏のお話もありましたけれど、集合住宅に対してのこだわりと言いますか、その辺のお話をお聞かせ頂ければ。

山本:そうですね。住宅って、大学の課題で必ずやるじゃないですか。大体家族4人ぐらいで、大体場所を与えられて、それで犬がいるだ猫がいるだとかっていう形になって。それでつくって終わっちゃうでしょ。そういう住宅のつくられ方っていうのはやっぱりすごい違和感がありますよね。そうだ、早稲田で2年生、愛人と一緒に住む家っていう課題を出したんですよ。

芦澤:それ聞いたことあります。(笑)

山本:どういうのかっていうと、お父さんお母さんがいて、おじいちゃんもいて、子どももいて、それでそのお父さんに若い女性の愛人がいるんですよ。それで、そのちっちゃい子どももいる。で、ほんとのお母さんもいるのね。ほんとのお母さんが2人ぐらいいるんですよ。ほんとか嘘か。で、愛人がまたすごく若い愛人。

芦澤:なるほど。(笑)

山本:それが一緒に住むんだったらどういう住宅をつくるっていうのが、早稲田の2年生に出した課題です。

平沼:芦澤さんやりましたか?

芦澤:いや、僕の時は多分違います。

山本:じゃ前かな。2年生だから。それを出したらね、全然うまくいかないんですよ。

平沼:うまくいかない。(笑)

山本:みんなリアリティ全然なくてさ。僕は「イスラム圏ではね、奥さん3人ぐらいいて当たり前だよ」って、スライドでインドの住宅とか見せたの。でも全然ピンとこなくて。

芦澤:ピンとこないんですね。

山本:それで若いお母さん、若い人と地下でつながってるとかさ。そういう事を聞いてるんじゃないんだよ。(笑)そうやって一緒に住むことのリアリティって全くないので、この課題は全くうまくいかなかったんですよ。

芦澤:もう家族像っていうのが完全に固まっていますよね。

山本:完全に固まっていますね。若いお母さん、若い愛人が来たら秘密じゃなきゃいけない。僕は秘密じゃないって言ったのに、秘密にしかならないんですよ。完全に我々の頭の中がそうやってインプットされちゃっているんですよ。だからそういう課題が非常に難しい。なぜかっていうと、そういう住宅にずーっと住んでいたから、住宅の新しいシステムに対して思い至らないんですよね。それで、住宅をつくるときに、未だに、あの1920年代につくられた住宅をつくっている。もうそろそろ100年ですよね。100年経っても同じことやってるような建築ってあんまり無いんですよね。それがこだわっている原因かもしれないですね。

芦澤:そこをなんとか打破されたいという。

山本:それとね、うまくいかないんですよ。いくらやっても失敗ばっかり、保田窪のときも。今は皆さん住んでもらっていますけど、あれも専用住宅群でしょ?ただ、基本的に集合する契機がないんですよね。それで集合住宅を、建築家がつくんなきゃいけないって非常に大きな矛盾があって。それがあるので、なんで上手くいかないのかなーと思って、ずっと今までやってきている感じがしますね。

平沼:クラスターであったり、プラン全体の決め方にある種のシステムを入れられることが多いなという感じがあるんですけど、

芦澤:それは僕もちょっと感じていて。すごい幾何学が強いというのは感じました。

平沼:どのように形態であったり、空間を導くような手法できめられていますか?

山本:集合住宅の手法ってあんまりないんですよ。中庭か、南に向かって太陽に対して平等に建てるか、あるいは路地を囲むか、まあ、そんなぐらいかな。あと、クラスターにするとかね。建築家たちは、それ以上集合住宅のパターンを発明してきていないんですよ。それは当然で、何やってもいいわけですからね。マンションみたいに集めてもいいし、住宅それぞれが完全に閉じているので相互の関係がないですから、どうやってつくったっていいわけです。ですから、コミュニティっていってもその程度のアイデアしか出てきていないんです。

平沼:なるほど。どんな建築をつくることを目指していますか?

山本:それは毎回毎回違いますからね。いつも同じパターンがあって、いつもコンクリートでつくるとかってことはないですね。大体そのときその場所でいつも違う。

平沼:なるほど。やっぱり場所性によるものでしょうか?

山本:そう、場所ですね。

平沼:なるほど。もちろん山本先生は個性豊かですが、ご自身の個性はどのようなところにあると思っておられますか?  

山本:昔からね、一貫性がないっていうのは言われています。渡辺豊和さんっていう大阪の人に、最初につくった建物をみて、精神分裂って言われたんですよ。環境とか住む人によっていつも違うものをつくっていきたいって思っているので、もちろん自分の個性はあるとは思っていますけれども、そこに住んでいる人や住んでいる場所との関係で考えていくところがあると思いますね。

平沼:なるほど。主体がご自身ではなく、場所や生活にある。

山本:はい。そうですね。

>>続きへ


| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | NEXT