芦澤:そうですね、今のまさに集合住宅の…。

山本:そう、日本に1955年、あの公団が出来たのですけれども、その時にこういうのが輸入されてきたんですね。
これがその当時1960年代。平均して4人家族で、その当時の高齢化率は大体10%位でした。今2013年では高齢化率が24.7%で、1住宅に住んでいる人数は平均して1.98人なんですよ。これすごい数字でしょ。1.98人って二人に満たない訳です。その多くは高齢者なんですよ。若者二人じゃなくて。高齢者の二人、あるいは高齢者の一人が多いんですよね。4分の1が高齢者ですからね。それでその4人家族っていうのは今全体の3分の1くらいしか無いんです。要するに、すごく少子高齢化っていうけども、住宅の側から見ていくと、住む人がどんどんいなくなっていくという恐ろしい状況なんですね。その風景がこういう風景ですね。これは横浜市金沢区の分譲住宅。こういうとこに、我々は今住んでいる訳ですね。さっきのヒルベルザイマーは高層住宅で、これは2階建てぐらいの住宅ですけれども、基本的には同じ構造です。

平沼:芦澤さん、神奈川ですよね。

芦澤:私の実家が神奈川のあの横浜のあざみ野っていう所で。ニュータウンの風景ですね。

山本:多分皆さんいらしてる方もこういう所に住んでいる人が圧倒的に多いんじゃないかと思うんですが、でもよく眺めてみると変だよね。すごく異常だと思いませんか。これに慣れちゃっている事が恐ろしいと思う。何が恐ろしいかっていうと、これは全部居住専用住宅だっていうこと。居住専用住宅がこれだけ集まっていることって、第一次世界大戦前のヨーロッパには無かったんです。あるいは第二次世界大戦前の日本にも無かったんです。必ずお店があったんですね。ここにはお店も何にも無いんですよね。

平沼:歩いて買い物に行けないですよね。

山本:買い物はどこかのスーパーまで車で行くわけです。だからこういう所に住んでいることの異常さっていうのは、20世紀の住宅の異常さなんですね。これはサンジミアーノっていうイタリアの都市ですが、こうやって住んでいる所は必ずお店があったんですよ。ギルドの人たちが住んでいたので、一階に店舗やアトリエがあって、上の方にギルドの職人達が一緒に住んでいたんですよね。だから専用住宅じゃなかったんです。こういうヨーロッパの都市行くとお店が並んでいて、観光客がいっぱいいますよね。あれは、現代社会だからじゃなくて、もともとああいう風景だったんです。かつての中世の都市は、ものすごい観光客が来たんですよ。それで、そこにしかないものを売っていたんですよね。フェラガモとか、こういうとこで売っていたんですよ。店の刻印があって、その都市の名前を靴に焼き鏝で押すんですよね。その焼き鏝のことをブランドっていうんですね。その都市の名前のブランドが、その靴の価値を高めたんです。どこでも売っているものじゃ駄目だったんです。こういう物と一緒に、こういう都市で売っている物とか、都市に住んでいる人とか都市のコミュニティ、コミューンって言いますけど、そういうとこに住むのが、都市に住むことだったんですね。都市固有の製品を持っていた。

芦澤:生産があれば消費もあって、その環境の中で暮らす、ということだったんですね。

山本:そうそう。だからサンジミアーノとか、こういうとこには街を守ってくれている聖人が必ずいたんですよね。聖人のための教会がある訳で、その教会が中心になる。その聖人の偶像が必ず祭られていて、皆その巡礼達がそこに訪れたんですよ。だからもうお祭りの時は必ず巡礼達がいっぱいいたし、買い物をして、ネットワークをつくる。ヨーロッパ中が。色んな街に行ったんですね。このお店のことをイタリア語だと「ボテッガ」って言うんですけどね。フランス語だと「ブティック」って言うんです。それでその聖人の偶像のことを、アイドルって言うんですよね。ブティックで買い物をしていたんですよ。今となんにも変わんないでしょ。

平沼:(笑)なるほど。

芦澤:今は全く違う意味に置き換えられていますよね。

山本:意味は同じですよね。これ江戸ですね。江戸の町もこうやって全部商店だったんです。一間半とか一間とかで。そういう間口で皆商店があって、奥にちょっと障子が見えているのは奥に寝室があったんですよね。京都や関西なんかは町屋がそうなっていますよね。その道路に面した所は、お店だったんですよね。そのように、店があって、住んでいるっていうのが都市の住み方だったんだけども、そうじゃなくてさっきの金沢区の写真は、それが全く無くなっちゃった違う住み方を我々は選んでいるってことですよね。それで、地域社会圏って話を、横浜国大に居る時から研究っていうか、皆で話を始めて、それを「地域社会圏主義」って2年位前に出た本があるので、それを買ってもらうのが一番いいんですが…

芦澤:そうですね。(笑)

山本:その概略の話をします。

平沼:はい。

山本:まず2015年位で、大体500人位が一緒に住む、という想定をします。その時、高齢化率がもう27%になっていて、62%が普通に働いている人ですね。27%が高齢者。65歳以上が135人になるんですね。障害を持ったりとか要介護者が大体 25人位。あと子供達とか、そういう人達が全部一緒に住むとどう家になるだろかっていうのがこれを考え始めたきっかけです。さっきの、ブティックがありましたけども、こういう2.7×2.7位の店みたいなものがある住宅を考えましょうと。まあ、見世と見世の大きさと寝屋の大きさは各自自由で、大きい店持っている人もいるし、小さい店しかない人もいるし。2つのユニットを借りると2人で住めるという。これが集まって共同のキッチンを持ったりとか、共同のトイレシャワーがあったりとか、共同のキッチンを使ったり。この「Sグループ」っていうベーシックグループ、これは5から7の家によって、出来上がっているんですね。これがこう連続してく訳で、どのキッチンを使ってもいいんです、外からの人も入ってきちゃう様なつくられ方なので。そうするとお店があるので、何となく商店街っぽい感じになる訳です。みんなこれはいい加減な店ばっかりなんですよ。

平沼:何ですかこれ?器レンタル?

山本:だから設計事務所をやっている人が、帰ってお酒の店をやる。サラリーマンで、帰ってお店やるとか、そういういい加減な店を。雑草屋とか、近くの川から雑草を抜いて来てそれを売っちゃうっていう店とかね。

平沼:「ちょい足し食堂」っていうのは?

山本:これはテレビでやっているじゃない。インスタントラーメンになんか足して、そういうのを売ろうかなって。

平沼:なるほど、面白い。(笑)

山本:そういう誰でも出来るいい加減な店をつくって、それを住宅と一緒に供給していこうという。

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