平田:屋根に関しては、コンペを始めた当初から何らか屋根型があった方が良いだろうと思ったんですけど、フィット感がある屋根 のかけ方を見つけるのが 非常に難しかった。 何故かって言うと、普通こう住戸があったら、1住戸に対して屋根が架かっているものなんですけど、この場合はそれぞれ50平米とか60平米の住戸に屋根架けてみてもしょうがないだろうと思ったし、逆に大きな屋根をボーンと架けたら、それはそれでなにか違うなという気がして 。この場所において屋根が 何に対して架けられるべきなんだろうかということを考えたんですけども、40戸がひしめき合っている集落みたいなものだとして、40戸全員の人が 一挙に集まるってことはまず殆どないわけですね。日常的には何人かの人が小さな輪を作るような集まりが、そのそこここに発生したりする位のレベルが、常に起こったり消えたりしている はずだと思うんです。そういう小さな集まりの場所に屋根を建て、連鎖させて いけば、全体のネットワークとしては1つの場所に見えてくるということにもなるんじゃないかなという風に思ったんですね。日常のシーンで 起こっていることの 1個1個は たわいもないことばっかりなんですよね。だけどこの たわいもない2人とか3人とか4人とか5人とかそのぐらいのレベルの集まりが連鎖していけば 全体としては場所としての強さを獲得するのではないか。 小さな場所に小さな屋根を架けていって繋いでいくことによって強い全体性が生まれうるんじゃないかなというようなことを考えて設計しています。住居は道に面していまして、リビングアクセスって言われる手法ですけども、孤独死とかが起こりにくい状態になっています。高齢者の割合が多いので孤立することがないような、関係性が出来てしまうような場所ですね。
屋根と関連して風についてもいろいろ考えています。実は風が、季節によってかなり支配的な風向がありましてそれを3種類くらい意識すると、実はその屋根の形によって都合がいい状態をつくれるというのが解ってきました。例えば冬、すごい強い風が吹いて寒いらしいんですけど、こう屋根があることによって、例えば屋根がないとその強い風がそのまんま通路の所をビュゥビュゥ吹き抜けるんですけども、屋根によって守られた層が出来ることがシュミレーションできる 。ようするに少し、守られた感じが出る。逆に 夏は屋根があると室内に風が入って来やすい、調整機構を果たすことがわかっています 。そういう風に、屋根自体がその単にシンボルというだけでなく、風をモデレートするその一つの即物 的な要素として働いていて、日射とかも考えながら配置していくと、最終的にこのような案になっていますけども、自然とこういう形になっていくというようなものですね。プランは公営住宅なので非常に単純でなきゃいけないんですけども、地下1階と1階は、間口5.5m奥行き11mとかの筒ですね。筒のようなものがこう並んでいます。その上に積み重なっている層は1階と2階は実はちょっとズレて、セットバックして、この1階の前、2階の前に道が出来ていて、1階はもちろん地面なんですけど、2階は左の方の地面レベルと、この辺から建物の上に1階上に出来ている通路になっていくんですけども、更に3階は、L字型のプランを使って更にセットバックして、4階は横長プランになって更にセットバックするということです。これ 4層位までにしか通用しない戦略なんですが、言ってみれば4層目ぐらいは中層の建物を建てるという風に、1階と2階も違うし、2階と3階も違うし、3階と4階も違うっていうことを一つの条件にして考えた時には、セットバックによって前面に道をつくるという、結構有効な戦略なのかなと思って います。 この道は部分的に雁行しているので、雁行している所に対して屋根を架けると、自然と場所が出来るような感じになっていくんじゃないかという案ですね。 だから割とシステマティックに出来てるんですよ。基本的に は、同じ形の反復なので2種類の組み方しかしていません。こういうような反復が出来ていて、種類を限定することによってこの壁の位置が上下に通っています。構造体として単にこういうロの字の構造だと いわゆる薄肉ラーメンになってしまって鉄筋量が増えてお金掛かっちゃうんですけど、壁が通っているから割と安く作れます。これは被災地のプロジェクトなので 無駄遣いは絶対出来ないので。とは言え 屋根みたいな、絶対必要な要素なんだけど あんまりそういうことを意識しない人にとってみたら単に装飾にしか見えないようなものを作って、それが最終的には浮かばれるようにしたいので、それ以外の所で変なこと出来ない。だから合理的にできるところは 出来るだけ合理的に作ろうとしました。普段使わないようなパターンの頭の使い方をしている所もあるけれども、でも建築ってどんな時でもあらゆる工夫を総動員して1個のものを作るという意味 においては、同じように謎を解くような感じで作っているわけです。
集合住宅 の前に子ども園があります。子ども園は4つの建物がひしめき合ったみたいな状態で真ん中が、遊戯室になっている。 広場みたいなものですね。道の連続が、広場になっているようなプランになるんですけど、中はこんな感じです。木造で、4つの架構がひしめき合ったみたいな子ども園ですね。大きな地形のようなおおらかさを持っている ものを作りたいと思っていて、一見ノスタルジックに見えますけれども、道とか屋根と いった人間の生活と密着したものを、自然環境との関わりの中で 一緒に考えています。自分としては今までとは連続しつつも、ちょっと発見があったかなと思っているプロジェクトです。


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