芦澤 : このスポーツセンターのプロジェクトでは、強い形式というのは敢えてつくらないことによって開放された部分ができたと思いますが、逆に、ディテールを積み上げてある場をつくることで、そこにもしかしたら同様の強度あるルールが潜んでいるのではないかとも思えるんですけどどうでしょうか。

青木 : 正直、見えてきたことは、このやりかたはすっごい不安です。もちろん質の良い物はできるとは思うけど。細部のところから出てくる強度が生まれるはずだって思うんだけど、それが言語化できないんですよね。試行錯誤して、本当にこれでいいんだろうかって思いながらやっている。でもね、きっとね、こういう作り方はあると思うんですよ。吉村順三さんがこの前愛知芸大にいたんだけど、彼は最初にコンセプトがあって走っていく方じゃなくって、きっとコツコツ派だよね。もう何十年も前につくられたものを見てもすごい強度を持っていて、そっかあんまりあの人のことよくわかってなかったけど、なんかわかる気がしたりして。まだ、本当にこれでいいのかっていうのは分からなくて。

芦澤 : 細部を詰めていくときの何らかのルールというのは、共通するルールを設定されているのでしょうか。それとも部分部分で違うルールを。

青木 : ディテールっていうのは完全にルールなんですよね。だから1箇所で面取り用の形とどこに付けるかって決めると全建物に関わってくる問題だし、それをどこの場所はやり、どこの場所はやらないかっていうこともすごく関わってくるし。細部を決めることは、ここはこうしよう、あそこはああしようになって、1個決めるたびに、全部のディーテールを見直すっていうことになりますよね。

芦澤 : 出来上がるのが楽しみです。

青木 : 次に行きます。次は広島で設計している三次市民ホール。これは、さっきのものよりも後、去年コンペがあって、やらせてもらうことになりました。3つの川が流れこんでくる、広島では最大の盆地です。こういう場所ですから、当然水害に合うんですね。それで、提案したのは3つあって、建物を普通につくっても水没しちゃうし、水没しちゃうとこの建物も困るけど、周りの人達が避難できる場所をつくったほうがいいから上に上げて水害に備えましょうっていうことがひとつね。人工地盤ですね。それからもうひとつは、地方都市だからいつも大公演があるわけじゃないでしょう。こういうホールは大公演が無いときは寂しい施設になりますね。だから、公演がないときでも使えるためには、楽屋なんかも含めて裏方に持っていくんではなくて、建物全体を回廊で回して、そこに面していろんな部屋があるというようにして。方法で区切って、ここは今回の楽屋のゾーンに使うとかっていうようにして、いろんな使い方ができるようにするためには、建物の中に回廊なり、外路をつくるっていうのがいいという提案。それから、それに関わることだけど、各部屋を一つの使い方じゃなくて、いろんな使い方ができるようにしようと。例えば上に持ち上げると、下が駐車場に使える。300台駐車場が求められているけど、いつも300台いるわけじゃなく普段は半分空いているわけで、空いているところで大道具つくったりダンス練習したりとかっていう広場的に使う。こういう使い倒し方があるでしょう。それから、ホールの客席側と舞台を区切って考えれば、舞台の方を客席にして、それに面した中庭で「焚き木能」とか「小神楽」とか火を使うものをやって、こっち側からも見えるようにするとかいうように、舞台を舞台じゃなく使うこともできるでしょうし。それからホールのホワイエなんかも長細いところは開放すれば太鼓の演奏とかできるだろうし、楽屋は寄り合いにも使えるでしょうと。そうすると駐車場といっても、屋根のかかった広場に使えるよっていう、こういう案でした。ここには形式もなければ材質に関する提案も一切なしっていう、単に方向だけというか、ボクシングで言えばガードもなければっていう、もう完全に打たれて結構ですっていう案です。設計期間が非常に短くて、去年12月から2か月で実施設計して終わるっていう段階なんですが、当然使う人の意見を聞かなきゃできないじゃないですか。だから住民から話を聞きたいんだけど、聞いている余裕もないんで事務所でホームページをつくって、そのホームページにメールで送ってもって取り上げられるものは取り上げてやっていきますって言って。すっごい大変で僕これ全部自分で書いたんですけど。公共建築だと、本当は設計者に意見を言えた方がいいと思うんだけど、こういうことってできるんだけど大変だからかな、やられてないんですけど。試しにやってみて、よかったなぁと今のところ思っています。

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