平沼 : やっぱり、よかったです。(笑) では早速ですが作品をみせていただいてもいいですか。

青木 : はい。今日僕が用意してきたのは、さっき話したように最近特に思っていることをお話したいと思ってきました。
この写真は僕の建物じゃなくて、とても有名な建築家 ル・コルビジェのシュオブ邸です。すごい初期の建物ですね。でもご覧になって、あんまりかっこいいと思わないでしょう?僕はこれを見て、なんてつまらない建物なんだろうって思っていたのね。これは左右対称で、堅くて、重くて。つぎの写真、これはサヴォア邸といって、実際コルビジェはこっちの作品で有名ですよね。さっきお見せしたものから10年後にはこんなのつくっているのですよ。これがコルビジェっていう建築家らしさですよね。さっきの建物なんか作品集にも入ってないくらい建物なの。簡単に言うと左右対象形ですよね。たぶん対象形っていう形式はかっこよくないなって僕たちは思っていて、コルビジェもそう思っていて、サヴォア邸では対象形をづらすことをやっていますよね。今日はコルビジェの話じゃないから、さっさと飛ばしますけど、対象形という堅い建築じゃなくて、もう少しアンバランスでバランスしているような、そういうものをずーっと、つくっていったのがこの後のモダンの時代だと思っていたのです。
ところがですね、この写真はfoaっていう人たちがつくった、横浜港大さん橋国際客船ターミナルっていうものですが、これは完全に対象形です。最初に見たコルビジェの初期のものは、対象形っていう形式であるからかっこ悪いって思ったんだけど、一巡して、これは対象形だからかっこいいっていう。同じ形式を見ていて正反対の印象というのがすごく面白いと思ったのです。それで、形式って何だろうというのが今の僕の関心です。
それに関わることを、自分がつくる中でどんなことをやってきたかなって振り返ってみると、僕が最初に設計したのが馬見原っていう熊本と宮崎の県境の小さな橋です。長さ40mくらいの橋で、普通と違うのが橋の上に道があるのだけど、その道が下に分かれて、また上って向こうでくっつくというかたちです。当時橋をつくるときに橋にバルコニーをつくるというのが流行っていて、そもそも橋という道に、道じゃない物をくっつけたところで何か面白い事ができると思えなくて、道なんだから道をどうするかって考えた方がいいなと思っていました。それで、道の形式を考えることで何かできないかなって思ってつくったのです。今は交通のためだけど、もともと道っていうのは生活の場でもあったわけで、ただ人が行き交うだけじゃなくて行商があったり井戸端会議があったりしたわけだから、道が昔から持っているものを引き出すために、どういう道をつくったらいいのかというのがテーマだったのです。
その結果、自分でいうのもなんですけど、結構上手くいったなって思っています。写真を見ていただいてわかる通り、いわゆるかっこいいデザインではないですよね。柱も太くて上と下に膨らんでたりしていて、普通の土木の橋のつくり方をしてるだけです。構造としても、土木でいうところの普通の解き方をしただけの普通の構造なんです。そういわれると、手摺りはごく普通の手摺りのように思うでしょ? でも、すごく頑張って考えて普通に見える手摺りをつくったんです。つまり、かっこいいデザインじゃなくて、ちょっと隙があるデザインっていったらいいのかな。デザインと思えないような、ただそこにあるっていうような、気にならないような、ちょっとザラっとした感じのものをつくろうとしたんです。・・・押し付けたくなかった。この空間で何かしてくださいとかっていうのをつくった側が押し付けるんじゃなくて、これを使っている人がなんとなく、「よしここでBBQしようかな」とか思ってくれるようにするには、あまり、ビシッとしてできちゃったら、できないでしょBBQ?だから、「落書きをしたっていいや、火を焚いたっていいや」っていうくらいの、ある雑さがないとダメだろうと思ったのです。そしたら、宴会をしてくれるようになって、川沿いに焼鳥屋があって、そこからロープで焼鳥が運ばれてくるっていう(笑) 夏なんかは、みんなで御座を持ってきて夜な夜な宴会をするような場所になっています。これは宴会する場所をつくったわけじゃなくて、結果的に宴会ができるような場所になったの。それは、こういう道をつくる形式だし、でも、単なる形式だけじゃなくて、ちょっと雑な感じの物のあり方も含めて出来たと思う。正直ね、未だにこれが自分にとって最高傑作だと思ってるんですけど(笑)

芦澤・平沼・会場 : (笑)

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