青木 : さっき話しました、原っぱのような、自由な空間。馬見橋でもやりたいって思ったことは、美術館ではそれこそがテーマの建築だなって思うのです。アーティストがそこに自分が関わってみよう、何かつくってみたいと思える、原っぱに思えるということ、それがテーマのはずです。まさか発電所つくって、改装して美術館にするっていうわけにはいかないから、最初から美術館としてつくらなきゃいけない。このとき考えたことは、タービンホールはタービンホールとして一生懸命機能的に考えてぴったりの物をつくった。その合理性、1本筋が通っている首尾一貫性がすっごくある空間なんですよね。ただ、タービンのために一生懸命やったというその目的は、僕たちが見てももうタービンがないからわからないよね。つまり、ここで重要なのは、首尾一貫した合理的な空間になっているという強度が伝わるからじゃないかと。適当につくったものはやっぱり刺激がないからアーティストは楽しくないんだけど、何か強度があるけどなんのための強度かはわからないというときに自由度があんだなぁと。それで僕は、ルールを徹底すると結果的に原っぱになるんじゃないかと。つまり、ルールをとことんオーバードライブすればいいんじゃないか、というのが僕のそのときの仮説でした。
それでつくった結果がこんな空間です。これは、今スライドをパッパッとお見せしましたけども、もう1個、形式に関わることだけじゃなくて、素材とか物のあり方に関しても関心をもっていたんですね。簡単に言えば、「落書きができる。落書きをしてもいいかな」って思えるようにつくるってことなんです。そうしないと自由に使えないですからね。例えば外壁で言うと、コーナー部分を見てください。厚みのあるレンガを積んで外壁をつくっているんですけど、コーナーが割れていますよね。これは、角のところのレンガを45°にカットして突き合わせているんですよ。そうすると、すぐに割れてこんなみっともないことになるのね。真面目な建築家は、なんでそんなことするのって言いますけども、これがもしレンガが積んであるようなごついつくり方をしていたら落書きしちゃいけないかなと思っちゃうでしょ。だから落書きしてもいいっていう感情をつくるためには、角は割れてくるわ、で、塗装は剥がれてくるわというような弱みを見せないといけなくて。性能は何も問題ないんですけどね。それから、この階段なんかでもキラっと光って綺麗ですけど、近くに行くとこんな感じなのね。工場でこれをつくるときに、最後にグラインダーでほぼ平滑にして持ってきて現場で塗装するんですよね。これは塗装するつもりは全くなかったんだけど、職人さんは知らないからいつもと同じようにグラインダーをかけて持ってきたと。やったーって感じで、これに透明塗料を塗ってこれを残したものにしました。全く同じ蹴上げとか踏み面の階段が2個あって、1個は光りすぎて良くないから白く塗って、1個は考えていた通りのこういう階段なの。その結果、危険だからという理由で、こっちの方が使用禁止になったの(笑) 白く塗っていると穏やかに見えるんだけど、荒々しく見えるのでなんか恐い感じがするんですかね。本当はこの階段はすごく重要だと思うのです。
こんな具合に、ルールをオーバードライブするというだけじゃなくて、素材も、雰囲気として自由な感じ、原っぱ的なことをやりました。

芦澤 : ありがとうございます。ずーっと聞き入ってしまいました。

平沼 : 奈良美智さんってあんなに有名になってしまったのに、ギャラリストが困るくらいどこでもスケッチされるじゃないですか。なんかあればやっぱり描いちゃう人で、そんなことを思い出しながら、青木さんの意図にぴったりな美術館だなと思って見させていただいていました。

青木 : そうそう。・・・今年、奈良さんの展覧会をこの美術館で開催されるのね。奈良さんには、ぜひ外壁に落書きしてくださいねっ、て言ってるのですけど、アーティストって言われたらやらないよね。(笑)

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