では次に「オルドス」ですね。

五十嵐:これは中国の内モンゴル自治区にあるオルドスっていう場所に、世界中から百人の建築家が呼ばれて、百個の別荘というか大豪邸を建てるというプロジェクトですね。日本からは藤本壮介さん、アトリエワン、僕の3人が参加することになったんですけど、このときね、僕まったく英語ができないんで、オファーのメールに気が付かないで削除してたんですよ(笑)。あるときどっかで藤本さんに会って、「五十嵐さんも参加するんですよね?」とか言うわけですよ。何それ?みたいな話になって(笑)。なんとか参加できたんですけど。まずは現地に行きまして、オルドスの空港ってすごい立派なんですよ。砂漠の中にポツンとあるんですけど、百人チャーター機みたいなので行くんですよ(笑)。飛行機を降りると、金色のバスが5台くらい待っていて、金色ですよ(笑)。先頭にパトカーがいて、パトカーの後ろにベンツが2台走っててね、ホテルまでノンストップですよ。信号なんて完全に無視です。

平沼:VIP扱いですか。

五十嵐:中国っていう国は常にそうみたいですね。恐らく一番いいホテルなんでしょうけど、変なリゾートホテルみたいなところに連れて行かれて、半ば監禁状態でオリエンテーションが始まるわけですよ(笑)。そんなかんじで一週間滞在したんですけどね。途中フリーな日程があったので、藤本さんとオルドスの市街地をスラムまで含めて、朝から夜中まで歩き回ったんですね。この場所がなんなのか、どういう状況なのかっていうことを見に行って。これ(図)が経済について調べたデータなんですけど、オルドスっていうのは、極端に経済発展しているエリアだったんですよ。羊毛の世界シェア7割とかね。それから、この(図)左の写真が敷地ですね。まだ造成もされていないし、春先だったんで植物も枯れていて、砂漠と草原の間みたいな場所なんですよね。あとこの分譲地みたいな(図)がありますよね。これ各建築家の敷地をくじ引きで決めてるんですよ(笑)。一人ずつ呼ばれて、箱の中に手つっこんで、ガラガラってひくと、僕は50番をひいたんですけど(笑)

平沼:建築家がくじ引きで敷地を決めるんですか。(笑)

五十嵐:そうそう(笑)。アトリエワンはたまたま僕の隣の敷地をひいたので、日本人が二人並んだんですよね。藤本さんはちょっと離れてたな。とはいえ一区画2000u前後ある、結構大きい敷地なんですけど、ただこう縮小してみるとね、日本の分譲をただ拡大したくらいなかんじの場所を与えられたわけです。次にさっそくオリエンテーションが始まるんですけど、英語なので僕は全くわからなくて、勝手にエスキスを始めるわけですね(笑)。こんなしんどい地域で何つくろうかと迷うわけですよ。オルドスは夏と冬で70度くらいの温度差があるんですよね。夏が35度くらい、冬が−30度くらいになるので、これは佐呂間よりもしんどいじゃないかと気がついたわけですね。しかも降雨量がほぼ0に近いんです。ということは雪も降らないわけですよ。そんな状況下で人が暮らせるんだろうかっていうことをまず考えたのと、藤本さんと街を歩いていたときに、行政の人が必死で植物を植えてるのを見たんです。水がすごい貴重な地域にも関わらず、植物の足元にピンポイントでチョロチョロと毎日水を供給してたんです。表現としては、砂の津波が緩やかに押し寄せてくるみたいなかんじ。いつか必ず飲み込まれるんじゃないかっていう地域なわけですよね。それくらいの危機感のある場所で建築を考える場合に、まずその緩衝体を含めて、守ろうという思考が働いたんですよね。同時に現地でわかったことは、工事現場の製法がすさまじく悲惨だったんですよ。これはやばいなと思っていたので、現地でできる最低限レベルのことで、精度を上げたいなっていうディテールの検討がこのへんの図ですね(図)。

平沼:さっき言われていたオリエンテーションの最中に、ディテールまで詰められているんですか?

五十嵐:そうそう。僕そういうのね、ぱっとやっちゃうんです(笑)。素材も選んだりして、いろんなことを考えた結果こういうふうになっていったんですけどね。

平沼:じゃあオリエンテーションが終わった時点で、ほぼできていたんですか?(笑)

五十嵐:そうですね。

平沼:そうですか。すごい。(笑)

五十嵐:レクリエーションが決まっていて、部屋の大きさもすべて決められていたので、これをごちゃごちゃやってもしゃーないなと思って、単純に並べたわけですよね。並べて大きさも確保しつつ、動線も確保して、それにバッファーを取り囲むような形にして。そのバッファーも、キューブだと地下も入れて6面全てバッファーにしてます。素材の選び方は、現地で調達できるもの。たまたまアイ・ウェイウェイの建物が近くにあって、工事中だったからいろいろ参考になったんですけど、防水もひどかったんですよね。雨が降らないから防水がひどくてもなんとかなるのかもしれないんだけど、防水のメンテナンスもできないだろうと思ったんで、屋根はガラスにしようと。それと同時に外周を守りたかったんで、屋根からのみ光を入れようと思ったわけですね。あともうひとつ、完全空調でやりたかったんですね。環境の状態を整える方法ってパッシブとかいろいろあるんだけれど、もしかすると絶対断熱で建物ができたならば、完全にコントロールしてあげた方が少ないエネルギー量で維持できるんじゃないか、または、天国のような状態の空間をつくることができるのではないかと思ったんです。天井高を高くすることによって、もう少し光との奥行きもつくれるんじゃないかと。そんな理由でこんなふうに(図)なっていったんですね。もうひとつね、街で必死に植物をなんとかしようっていう光景を目の当たりにしてたので、その解決も考えていて、これ実は一階平面図のフットプリントをそのまま自分の敷地の空いてるところに映したんですよ。映したものの上側をカットして布基礎だけ残るような形状にしたんですね。これには大きな理由があって、水を撒いてもすぐに乾いてしまうのは、風で砂が飛んできたり、風で水分が奪われてしまうからなんですね。保湿性を保つために、基礎を立ち上げることで効果があるだろうと。もうひとつは、フットプリントを映すことでいろんな庭をつくれるのではないかというガーデンの計画ですね。(図)こんなかんじでトップライトからのみ光が入ってきます。(図)これが各部屋のプロポーションです。いろんな平面に対して、天井高は常に一定であるという計画をしました。この後に、「ハウスM」という住宅をつくるんですけど、トップライトからのみ光を入れるという設計は、実はこのオルドスを前提にしています。(図)これはドールハウス並みに作りこんだ模型の写真を撮って、フォトショップ上で加工していったものですね。実は地下にプールがあって、乾燥している地域なので、実は家全体の加湿器みたいなこともやりたかったんですね。

平沼:これは全室平屋ですか?

五十嵐:地下にメイドさんの部屋とプールがあります。

平沼:天井高さはどれくらいですか?

五十嵐:地下は3mくらいかな。そんなに極端に高くないです。

平沼:なるほど。

五十嵐:このときに僕、いろんなことを経験したんですけど。比較的自分に近い世代の建築家が100人も呼ばれていて、全員のプレゼンテーションが終わった時点で、四角い建物は僕だけだったんですね(笑)。あとはみんなぐにゃぐにゃしてるわけですよ。その模型を敷地にはめていくんですけど、アメリカ人の結構有名な大学の偉い教授の建築家が来ていてね、彼らの話し振りに僕は驚いたんですけど、この形はこっちに持ってきた方が全体としてかっこいいとか言ってるんですよ。そりゃもう衝撃的でしたね(笑)。

芦澤・平沼:あはは。(笑)

五十嵐:そういう概念でこの人たちは建築をつくっているのかっていうことに初めて気がついて、そういうのを経験したことで自分の立ち位置を改めて発見できたという、すごくいい経験をさせてもらいましたね。

芦澤:塚本さんが隣の敷地でやられていて、そこの調整とか、お互いのある種同時に建てるわけだから、いろいろバッファーのスペースっていうのは、意識としてはデザインもできるのかなぁと思うんですけど、その辺はどうですか?

五十嵐:みなさんね、あんまり考えて無いんじゃないかなって僕には見えましたよ(笑)。好き勝手やってるなって(笑)

芦澤:塚本さんも?(笑)

五十嵐:あんまりよく覚えてないんですけどね。

芦澤:なるほど。

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