手塚:これは、餌をあげてるところですね。「ふじようちえん」って田んぼとか畑とか持ってるんですね。もともと農家なんですよ。そこでつくったものを食べさせるっていう、すごくいいサイクルができ上がっているんですね。でね、この幼稚園って、設置基準を守ってないんですよ。幼稚園の設置基準ってたくさんあって、昔はね、屋根の上に乗せるのだって良くないっていわれてたんですよ。それから、天井高も3m、小学校の基準に沿いなさいみたいなのがあって。ところがですね、やっぱり低いほうがいいっていう話になったんですね。どうしようかっていう話をしてたら、園長先生が、俺が金払うんだからいいんだよ、っていう話になって…、すごい人なんですよね。もちろん文部省の関係の人は、これ全然従ってないじゃないですかって言うんですよね。だけど、園長先生は俺の金だからいいんだって話ばっかりで。大事なのはね、屋根を高くしちゃうと天井ばっかり見えて屋根の上が見えないんですよ。やっぱ屋根の上をみなくちゃいけないと。そうすると低いほうがいいんですね。できるだけ見えた方がいい。それから、屋根っていうのは平らじゃなくて、ちょっと傾いてる。内側の丸と外側の丸の高さは違うんだけど、外側のは同じ高さなんだよね。で、幅が違うから三次曲面なんですよ。傾いてるから屋根の反対側にいる子どもまで見えるんですよね。いいじゃないですかっていっても、それはいけませんってずっと怒られ続けていたんですけども。あるとき、OECDっていう、世界経済協力機構っていう世界銀行のお金をどこに与えるかっていうのを考えてたとこがあるんですね。そこがいわゆるCELEっていう、いわゆる教育環境の委員会を立ち上げて、ユネスコと国連を呼びかけて、世界中で一番いい学校を選ぼうっていうプロジェクトをやって。33カ国が最終的に33カ国が代表選手を出して、私たちは関係ないんですけど、勝手に出したら「ふじようちえん」が過去50年間の、大学も含めた学校建築で世界一になった。すごいことになっちゃって。そしたら面白いのは、日本人の話って日本の政府は聞かないんですけども、海外から見るとすごいことだって突然手のひらを返したように、そんなこというと怒られちゃいますよね、途端に変わって、文部大臣賞を園長先生に渡して、我々がパリの授賞式に行ったら、何故か5人も政府関係の方が一緒にいらっしゃって。この方たち一緒にやったかなと思うんですけど、へへ。帰ってきたら、今度はうちの奥さんが幼稚園の設置基準をつくる委員に指名されて、自分で法律をつくれるのはこんなに楽しいことだとは思わなかったんですね。やりたい放題。

芦澤:はははは。

手塚:天井高は何でもいいです。屋根の上に乗っけましょう、行き止まりのない空間をつくりましょうという。面白いですよ。

平沼:へー。すごいですね。

手塚:やりたい放題ですね。まぁいろんな話があるんですけど、これやってるときりがないのでどんどん飛ばしていきますね。いまどきの子どもっていうのは雨がどう水になるかとかわかってないんですよね。これは足洗い場で、これはうちの研究室の学生が設計したんですね。研究室の学生にはいろいろと実際の建物をやらせたりするんですよ。忙しいですよ、うちの研究室。大学の学科の予算くらい研究室の予算があるかもしれないです。普通は、コンクリートの壁があってそこから水道が出てるけど、そうすると面白くねえぞってことで、地面から生えている草みたいな水道をつくろうってやったのが、これですね。色んなタイプがあって、手前のは普通ですけど、その向こうがフレキシブルで、友達に水をかけられるやつとか。それからシャワーとか。でっかい水道になってて、そこからプールに水を入れられるとか。一番手前のは水をどうしてるかって靴のなかに入れているところです。

芦澤:はははは。

手塚:よくできてるのは、この下に流しが隠してあるんですね。普通の流しって、すぐ詰まるんですよ。なんでかなあって思ってたら、女の子がね、バケツに泥をいっぱい持ってきて一生懸命排水溝に詰めるんですよね。

芦澤:ははは。

手塚:そうするとプールになるのが楽しいらしくて。できるだけそうしないような流しをつくろうっていって、この下に流しが隠してあるんですよ。このスライドが一番大事で、見た通り、外と中もつうつうだし。それから、部屋と部屋の間の仕切りもない。これがこの「ふじようちえん」の真骨頂で。これはこの間TEDtalkってところでお話したんですけれども、自閉症の子供がほとんど発症しないんですよね。その話をしたとき面白い話があって、すいませんね、スライドじゃないところはみだしちゃって、これ面白いかなって思って今準備しちゃったんですね。

(音)

手塚:ビーって音がしてるでしょ。このビーっていう雑音は、ジャングルの音なんですよ。前で鳴ってる歌はバリのケチャダンスの。これは日本の歌舞伎より長い歴史があるんですよね。面白いのは、ジャングルの中にいる時は、この音が聞こえなかったんですよ、ビーっていうバックグラウンドノイズが。ところがiPhoneで録って東京で聞くとノイズかあると。大橋先生っていう有名な芸能山城組のリーダーで凄く有名な方がいるんですけど、サイエンティストとしても有名で、その方が教えてくださって。貴方の体も同じことしてるの知ってる?って。貴方の体はものすごく雑音を出していて。だから聴こえないように、情報としてキャンセルしちゃう。ジャングルの中にいるときも、人間っていうのはキャンセルする力があって、それを消すのが定常の状態だと。ところが、あなたが水の中に飛び込むとその音が戻ってくると。ゴーって音がするでしょ? 水の中に潜って音がするのは、水の音じゃなくて体の中の音が聞こえるんだって。要はね、子供を周りの音、環境から切り離すと、水の中に潜った人間と同じ状態になって、体の中の音が返ってきちゃうと。ジャングルの中のあの雑音、高周波ノイズがあるのが本来の状態で、それが切れているのがおかしいと。確かにね、子供ってうるさいところの方がよく寝るんですよね。でも静かなとこにそーっとしておくと起きちゃうんですよ。

平沼:そうですね。

手塚:うち学生も、静かにしてる時は起きているのに、私達が話していると寝ちゃったりなんかして。

平沼:ははははは。

手塚:バックグラウンドノイズってすごく大事なんですよね。でね、この幼稚園は、隣で音楽をしていて、こっちでいわゆる算数に近いことをしていても、ちゃんと集中するんですよね。ものすごく集中力がある。そのバックグランドノイズがいっぱいあるんですが、その中で情報をピックアップする力が手に入るんですね。そういうことをすごく大切にしている幼稚園。

平沼:なるほど、なるほど。

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