平沼 : 芦澤さん、この図書館は見られました?

芦澤 : すみません。まだ見ていないんです。

平沼 : すごい賛否両論あるみたいで、いろいろ聞きますけど。

藤本 : これはねぇ、めっちゃいいですよ(笑)。自分の建物とはいえ、なかなかできたときに素直に感動できるものっていうのは、そんなにないじゃないですか。やっぱり良い悪いはあるじゃないですか。これはねぇ、いいですねー。何だろう。ここにしかない空間がありますよね。

平沼 : そうなんです。空間がすごい伸びやかで、スケール感の圧倒的な大きさみたいなものを感じるんですよね。あと、本棚に本が入ってないことがね、普通にいいなと思えてしまうんです。たぶんこれ、もともと本を入れようと思っていたはずなのに、

藤本 : そうそう。そうなんですよ。これ言い訳じゃないんですけど、本棚ってこんなにつくったら、全部入れてないと嘘に見えるじゃないですか。僕も最初そう思っていたんです。この本棚に全部本が入ってないと、嘘になっちゃうと思っていたんですけど、本が入ってない方が、全然いいんですよね。それはちょっと屁理屈っぽくなっちゃうんですけど、一番最初に言った、コルビジェの近代建築みたいに、本棚イコール本を入れるところ、それでOKみたいな、でも本が入っていないと、本を入れてもいいけど、本棚じゃなくて何なの?みたいな、意味合いが一気にブレ始めるんですよね。それが豊かさなんじゃないかなっていう、要するに決めきらないこと、決め得ないというか、その保留されている状態なのかなと、考えながら見てましたね。本を入れてもらってもいいですけどね。でも入ってない状態もいいですよね。

平沼 : なんか、どんどん増えていけるような余白みたいなもの。建物をつくったときに、耐用年数のような指標に、最近僕は興味があって、どのくらいこれが持つだろうっていう想像図を描くんですけど、そのときに、こういう余白があると、安心というか。いつまでも使ってください、みたいな。

藤本 : 入れられるもんなら入れてみろみたいな(笑)。

平沼 : 実空間の方が、写真よりいいなと、僕は思いました。

藤本 : いや、圧倒的にいいですよ、実空間(笑)。僕自身は設計者だからプランを知ってるし、どの場所がどんな空間か知っているんだけど、中に入ると、自分がこの建物の全てをまだ見終えてないんじゃないかっていうような感覚がするんですよね。そうすると動き回るじゃないですか。そうするとまた、新たな発見があって・・・まあいいや。自分の作品を話しても嘘臭いですね(笑)。

芦澤 : 僕ね、行ってはいないんですけど、写真で見させてもらって、すごくおもしろいし、らせん状のプログラムもすごくおもしろそうだなって思ったんですけど、今日のお話を聞いて、さらに思ったんですけどね。この本棚をさらに解体して、もっとアノニマスというか、さっき言われていたような、本棚なのか、そうじゃないのかというようなことをやりそうなのになーと思って見ていたんですけど、そこはもう、毎度のあれですか(笑)?

藤本 : 確かに本棚には複雑な思いがあって、図書館に対するリスペクトみたいなものがあったんですよね。つまりアレクサンドリア図書館の時代までさかのぼれる、非常に歴史的なシステムですよね。日本にはそういうシステムは無かったのかもしれないけど、少なくともヨーロッパ文明が築き上げてきた歴史的なシステムというものに対して、建築的なおもしろさによって、そのシステムを無視していいのか?みたいな想いがどこかにあったんですよ。INAXから出してもらった本に掲載している文章に書いたかもしれませんが、我々は建築家だから、建築の一タイプとして図書館があると思ってしまうんですが、建築としておもしろくするには本棚をなんかしてやったほうがいいんじゃないかという想いがあったんです。一方で図書館というものが建築の中にあるんじゃなくて、歴史的なものも含めて、もっと大きな世界なんじゃないかと。ご存知の方もいるかもしれませんが、ボルディスっていうアルゼンチンの作家の「バベルの図書館」という本があるのですが、プロジェクトが始まる前から好きで、言ってみれば究極の図書館の話なんですね。図書館がすべての世界を含み込んでいる、異様に不気味な話なんです。建築とか関係なくなってしまっているんですけど、本棚というものに対するある種のリスペクトというか、補完すべからざるもの。そういうものをこの世界に立ち上げておきたかったんですよね、究極の図書館みたいなものを。

芦澤 : さすがに藤本さん、全部返してきますよね(笑)。

藤本 : 思いつきで(笑)。

平沼 : ご自身の個性ってどう思われますか。

藤本 : 個性・・・ないですねぇ。

平沼 : 誰が見ても個性的なんですけどね。

藤本 : そうですか。あんまり意識していなかったですね。僕は世界、人類の潜在意識を発掘する手助けをしているっていうぐらいにしか思っていないんですよ。例えば、アインシュタインが理論を発表したときに、確かにその個人でしか成し得なかったことかもしれませんが、その結果に個性が出ているかどうかってあんまり関係ないじゃないですか。だから、僕は自分の個性を出したいというより、結果としては出てしまっているんでしょうけど、想いとしては、人類の歴史をちゃんと引き継いでいくことと、現在の人類の潜在意識にかたちを与えて、後世に伝えたいということですね。

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