芦澤 : 藤本さん、今日はよろしくお願いします。
藤本 : 藤本です。よろしくお願いします。
平沼 : では、さっそく。
全員 : かんぱーい!
平沼 : では、ゆるーく始めていいですか(笑)。
藤本 : はい。今日は気楽なんですよね。僕が主体的にしゃべるっていうよりは、いろいろ聞かれて答えるっていう趣旨なんですよね?
平沼 : でも、会場のみなさんは藤本さんの作品についてのお話は聞きたいですよね?
藤本 : あ、そうですか。わかりました。
芦澤 : では、自己紹介から。藤本さん、お生まれはどちらでしたっけ?
藤本 : 生まれは北海道です。
芦澤 : 学年で言うと、1971年の?
藤本 : 8月です。
芦澤 : あ、じゃあほんとに同じ学年なんですね。
藤本 : もうすぐ40歳ですよね。
芦澤 : 北海道のどの辺りですか?
藤本 : このペースだと、2時間たっても建築の話にたどり着かないのでは・・・(笑)。
北海道の釧路という港町で生まれました。でも、0歳くらいから転々としていて、最後は東神楽町という旭川のすぐ横に田舎の町があって、そこに小学校2年生くらいのときに住み始めて、それからずっとそこで育ちましたね。
芦澤 : その原体験が今のつくっているものに影響があるとか、いきなりそんな話を聞いてもいいですか(笑)。
藤本 : はい(笑)。あるんだろうなぁ、というか、あるって言った方がいいんだろうなぁ(笑)。大学で東京に出てきたんですけど、最初は東京の街が僕にとってはすごく新鮮だったんですよね。田舎で育っているので。北海道の旭川という町の高校に行っていたんですけど、北海道の町って碁盤の目でできていて、たぶん街自体ができてから100年も経っていない、すごく新しい町なんですよね。そんなところにいたのが、急に東京の街に出てきて、いわゆるごちゃごちゃしたところっていうかね、それはすごく新鮮で。
藤本 : だから北海道なんて関係ないなって思っていたんですけど、最近そのごちゃごちゃした感じが、逆に北海道の裏山とか、そういう自然のごちゃごちゃした感じにすごく似ているんだなということが分かってきたんですよね。
藤本 : 単純に東京に出てきて、人工物にシンパシーを感じたというよりは、人工物でできているんだけど、自分の原体験で持っていた、雑木林的なというか、そういう風景が重なっているのがすごくおもしろかったんじゃないかと、自分で勝手に分析をしているんですね。
平沼 : なるほど。
藤本 : 何とか無理やり北海道につなげておくと、話としてはおもしろいじゃないですか(笑)。
芦澤 : あ、はい(笑)。
藤本 : ただ、こういう話としてはおもしろいかもしれないし、自分の中では東京と故郷の両方を持っていて、その両者の間に意外なつながりを発見したということは、自分にとってはすごく楽しいですよね。そこから次の建築のアイディアが出てきたりするので。自分の原風景を自分で勝手に再構築していくような、そんな気はしますね。
平沼 : 藤本さんって、すごく気さくに話してくださるんですけど、僕が初めて藤本さんを知ったのは、みなさんも当然ご存知かと思いますが、国際フォーラムの、あれは2002年でしたか。
藤本 : 2003年ですね。
平沼 : あ、はい。僕は一次審査で敗退してしまったんですけど、なんと、その審査会場に行くと、同じ年の建築家が、最終審査に残っていて。
藤本 : あのときいらっしゃったんですか!
平沼 : はい!にこにこしていて、それがすごく印象的で、なんだこの人はってびっくりしたのが、初めて藤本さんを知ったときですね。
藤本 : あのとき、平田晃久さんという大阪出身の建築家が最終選考に残っていて、やっぱり同じ71年生まれなんですよね。だからそういうつながりは、なんかありますよね。
平沼 : 平田さんが、さっきAAFから紹介されていたU-30展のシンポジウムにお越しくださるんですけど、堺の仙北のご出身なんです。
藤本 : こてこての大阪人ですよね。
平沼 : そうなんです。
藤本 : まぁいいや。なんか建築の話にたどり着かない気がしてきた(笑)。
平沼 : もうそろそろいきましょうか。
スライド : 『どんな建築空間をつくりたいと目指していますか?』
藤本 : それでいきなりこの質問ですか(笑)。
平沼 : これ、聞いてみたいと思っていて。これを聞いてから作品を聞くと、なんとなくわかるとか、全然違うじゃんとか、みなさんがおもしろいかなと思って。
藤本 : なるほど。1年位前までは、あまりわからなかったんですよ。そんなに大雑把な答えというのがないなと思っていたんですけど、最近、ここ2,3年、自分たちがやってるプロジェクトが支離滅裂なんじゃないかなと思うようになってきて。要するに、おもしろいと思うことをやっているんだけど、その背後というか根っこに、自分たちはなにも持っていないんじゃないかなっていう危機感みたいなものが、僕の中で出てきて。仕方ないので、事務所のスタッフを集めて、おれたちって何をやろうとしてるのだろう、ということを、何度か議論していたんですよね。今でもしたいなと思っているんですけど。
それで、いろいろやっている中で、いくつか、こんな感じかなということがあって、ひとつは、すごく単純なんですけど、自然のような場所、自然のような建築、建築と言うよりも場所と言った方がいいかなぁ。それが、僕らだけじゃなくて、この時代の建築が無意識に目指しているものなのではないか、というのがひとつですね。それからもうひとつは、すごく大きな、都市的なと言っていいのかもしれないですけど、都市や自然のランドスケープのようなスケールから、人間の身体のスケールまで、ギャップってけっこうありますよね。その間に建築というのは位置づけられるんだと思うのですが、単にこの間にある建築をどうこうするのではなくて、その外側に広がっている都市的なスケールと、その内側に広がっている身体的なというか、家具的なスケールをずっと連続的につなげていくようなことが、人間の活動する場所をつくる、というすごく大きな建築の目的という意味では、やっぱりおもしろいのではないかなと思うんですよね。
建築というのは、その時代ごとの人類の潜在意識みたいなものにカタチをあたえているものなのではないかなと思っています。こんな場所で生活してみたいなとか、こんな町があったらいいよねと、なんとなく無意識的にもっているものに、かたちをあたえていく作業なんじゃないかなと思うんですよ。そのひとつが、すごく大雑把ですけど、さっき言った自然のような場所ですね。それから都市的なスケール、とくに20世紀以降、都市のスケールって拡大していますよね。そのスケールから、身体や家具のスケール、あるいはもっと小さなスケールでもいいんですけど、そういうものまでをずっと連続的に繋げていけるものが、我々の時代の無意識の、人類の潜在意識なんじゃないかなぁという気はしますね。
平沼 : なるほど。そうですか。どうですか?
藤本 : いきなりこの質問で抽象的に答えてみたものの、なんのことかわからないんじゃない(笑)?
芦澤 : 自然の状態と言うのは、僕らの世代では、なんとなくそこは共有しているような気がしています。例えば僕は、もう少し具体的に、自然の持っている構造から何が学べて、それをどう建築にするかということに興味があります。
藤本 : 今まで建築物は、シンプルに整理整頓をしていけば、ある美しさに到達するという感じだったと思うんですけど、でも、そうじゃない快適さもあるのではないか、という予感みたいなものからやってみると、ある整理されてないごちゃごちゃした感じも、つくろうと思えばつくれそうだなとか、その背後にあるゆるやかなルールみたいなものを見つけ出して、単なる混沌にならないようにできそうだなとか。そうすると建築と自然の狭間みたいなものを、もう少し展開できるのではないかと、そんな予感をみんな共有しているような気がしますね。 |