平沼:
僕たちの世代って、こぞってみんな海外に行ったじゃないですか。数年単位で行ったり、学生の頃から行く人も多かった。そんな世代に対して、今の学生の世代って、海外に行ったことがないとか、海外に建築を見に行く価値を重んじていない傾向があるように感じています。僕たちが見た、外から見た日本と言うのがやっぱりあるのですが、今は圧倒的に日本が鎖国状態になりつつあって、日本の中だけで、価値とされていることを捉える人の建築論が台頭してくるんじゃないかと思っています。この状況の中で、前田さんが見る未来予想図は、今後、この日本の建築ってどう変わっていくのだと思いますか。
前田:
どうなんでしょうねぇ。
平沼:
海外から見て、どういう領域の中で、どういったものが生まれてくると思いますか。
前田:
日本だけが特殊ですよね。
平沼:
そう思います。
前田:
鎖国状態ですよね。
平沼:
そうなんです。だから本当に、今すでに、世界と共通言語をもたない日本という国がもう発生していて、日本で価値だと思っている建築言語をヨーロッパで言っても全然通用しないし、何を言っているんだろう?みたいな顔をされるし、全然インターナショナルから外れたような、それが特異な地域性なのかもしれませんけど、そこはいかがでしょうか。
前田:
それはけっこう身体感覚に近いのかもしれないですけど、向こうのほうが良いということは、憧れみたいなものも含めて思うけど、戻ってくるとやっぱり自分の身体は日本ですよね。その両方はいつも感じますね。それを意識的に感じるのは、行かないとわからないので、海外には行った方がおもしろいことを感じられると思います。
芦澤:
学生なんかを見ていると、向こうの学生と日本の学生を比べても、やっぱりだいぶ違いますよね。例えばヨーロッパの大学生なんかを見ていても、いろんな国から集まって来ているので、色々なコンテクストがそれぞれにあって、その上で建築に何ができるかということを、それぞれが考えている。もちろん意見も文化も違うので、自分のナショナリティとまでは言わないけど、バックボーンを背負った上で、物事をちゃんと発言しますよね。僕はそれほど数は多くないけれど、たまに海外に教えに行ったりすると思います。今日、会場に来てくれている日本の学生の皆さんも、僕が思うのは、海外にもうちょっと視野を広げた方がいいのではないかな。
前田:
体験として、向こうに行くと身体感覚みたいなものは拡張するんですけど、その後、日本に戻ってきたときに、時々引き出しとしてその感覚にもう一回入っていけるかというところはあります。
あと、今はだいぶ慣れてきましたけど、住宅を設計していても、向こうは周辺のどこかに変わらないもの、場所があるんですよね。慣れとして周辺環境に信頼をおいて設計を始めたりするところがあって、日本で設計を始めて、周辺環境として10年後に変わらない場所が「無い」かもしれないと思ったら、どうやって新しいものを設計したらいいんだろうと、ちょっと不安になりました。それで「変わらないもの」として地形などに興味が向いていったのかもしれません。
芦澤:
今までの話の中でも節々に出てきているんだけど、前田さんの作品をみていると、都市的なところから、建築、ランドスケープまで横断的に考えていて、そこを分節的には考えていない。そういう思考を感じるんですが、意識的にそういうことを考えているところはありますか?
前田:
ランドスケープ、あと公共に近いもの、全部を並行して考えられるような設計をしたいなとは思います。例えば住宅にしても、建物と、建物じゃないところを並行して考えていたい。建物の中を考えつつ、常に外側への意識がはたらくというか、半分半分くらいのバランスで考えていきたいなと思いますね。それが都市に繋がれば、すごくいいと思います。
平沼:
前田さんがヨーロッパに行って旅行をされたと言うお話を聞いて思ったのですが、ヨーロッパに行って何が良いかというと、ホテルの中が楽しいんですよ。ホテルの中から見える景色がいいんです。ホテルの中から見える景色が、三つ星とか四つ星のホテルほど良くなっていて。内部のインテリアがどうのこうのという話ではなくて、やっぱりその場所がちゃんといい空間であるホテルほど、高級ホテルになっているなっていう意識があります。だから、前田さんがおっしゃることは、そういった体験があって、その中から生まれていることなんだなって思ってしまうんですけど、どうですか?
前田:
そう言われると、確かにそうだなと思うところはありますね。日本でどこかいい感じになっているところは、ないですか?
平沼:
なかなかないですよね。旅館とか行くと良いですけどね。住宅で、住空間の中をデザインしたっていうのでは、ないですね。外に見える景色に向かって、とか、またその景色の向こうの建物に向かって、というような設計を考えているものって少ないですから。
前田:
僕が良いと思うのは、旅館の露天風呂から見える原生林みたいな風景であったり、そこを、旅館を運営している人が所有していると思っているところです。実際の管理をどうしているかまではわからないですけど、建物だけを所有している感じではない、風景を所有している感じというものが、何となく建物の中からの風景に現れるようになったらいいなぁと思います。
芦澤:
日本庭園とかは、近い気はするんですけどね。

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