芦澤:
では、そろそろペロー事務所の作品からお話を聞きたいと思います。こちらは去年竣工した富国生命ビルですが、ちょっとこの辺のお話を聞かせてもらっていいですか?
前田:
はい。じゃあ話しながら説明していきます。2006年から経済が動き出して、当時、阪急の建替えが決まっていたんですね。それで、阪急の竣工の前に立替えをするということと、海外の建築家を呼んでコンペをするという、そんなミッションで開催されたものです。富国生命ビル自体は清水建設さんとずっと建物をつくられていた関係で、設計施工は清水さんっていうのは決まった状態でコンペが行われました。ちょうどこの前年の2006年に、僕の出身校の大阪大学でペローのワークショップを行ったのですが、ちょうどワークショップが終わって帰ってきた1週間後に、コンペの指名設計者にセレクションされて、現地調査を1ヶ月後くらいにしますので、是非参加してくださいというメールが来たんです。ちょうどペローも、そこの前を何回も通っていたので、俺は行かないからお前が行って来いということになり、僕にとってもなじみの場所なので、現地に行く前にすぐにスタディを始めました。
芦澤:
で、出来上がったのがこれなんですよ。どうなんでしょうか(笑)。
前田:
もともと高さやプロポーションに関しては、事業コンペなのでおおよそ決まっていたんです。ただ敷地が非常にいい場所ですので、よくありがちな、低層部が商業施設で、商業だから敷地いっぱいに建てるという、いわゆる墓石みたいなかたちのタワーを、どうにかして一体化したいということで、建築家を集めてやったようです。それで、コア計画の操作をしながら、低層部では敷地いっぱいまで商業ボリュームを取り入れつつ、かつ長方形のオフィス部分を載せて、ずどんと落ちた後に余る三角形の部分に、地下に光を入れるアトリウムをつくろうという案は、かなり早い段階で出てきました。もともとアトリウムみたいな空間を地下につくるというのは、事業者側にもあったんです。でも、それをできるだけ大きく設けたい。やろうとしていることをできるだけマックスにするために、機能空間をできるだけコンパクトにすることができないかと考えました。ペローは、いわゆる日本の建築家の方がされるような、平面図を面白くするっていうことはあまりしないんです。だから平面図だけ見るとつまらないというか、機能的なんですよ。これも似たようなもので、この場合にはアトリウムの部分をできるだけ大きくとるために、機能空間をできるだけぎゅっとコンパクトにするという計画でした。結果的には、アトリウムの余白を一番大きくとったのがペロー事務所だったと思うし、できるだけオフィス基準階のボリュームを、阪急から離す側に建物をもってきたという提案だったんです。
芦澤:
スライドの中にルーブルの写真を入れてますけど、これがちょっとイメージにあるの?
前田:
そうですね。これはペローからというよりかは、パリの中で待ち合わせ場所として、市民に日常的に使われている事を僕が好きでした。まぁ市民というよりかは、世界中から来ている観光客ですけど、美術館自体は古い建物で、そこの地下になります。中庭は寒かったり暑かったりするんですけど、ここの地下は自然光が気持ちよくてすごく待ち合わせに使われています。あの、有名なガラスピラミッドのメインエントランスの方も、個人的にはすごく気持ちいいなぁと感じていて、こういう場所が大阪にもあるといいなぁと。
平沼:
このコンペの情報は、よく知ってたんですけど、超高層ってそれまでにやってますか?
前田:
超高層は、実施でやったのは初めてでした。
平沼:
僕も偶然、近くを通って、足場が外れた段階で見たんですけど、圧倒的にこの建物はすごくよく空気が通っているし、大阪にもっとこんなものがないとどうするんだっていうことを思わせてくれた建築です。これぐらい建築家ってすごいんだなって思わせてくれるような印象で、いいと思うんですけど、具体的にはどんな感覚でつくったのですか?
前田:
これは、アトリウムのところがタワー工事の終盤までずっと重機の置き場になってたんですよ。タワーの上の方までは、ずっと建ち上がっていましたけど、ここの場所が出来上がって、足場が外れてアトリウム内側から足場のない空間を見れたのはけっこう最後の方で、どれくらいの空間になるかっていうのは、僕も最後までわからないままだったんです。できてくると、こういう場所をつくれるのはすごい仕事だなぁと思いました。建物を建てるのと同時に、建物じゃない場所をつくることができるのかなと、そういうことを考えていました。例えばこのアトリウムとかは、いらないと言えばいらないんです。何にも寄与してないんですけど、でも建物が建てられるということによって、機能空間をコンパクトに詰めることによってできる空白と言うか余裕というか、そういうことを同時に考えることが大事だと実感しました。僕は、最初のデザインの頃から関わらせてもらっていましたけど、やっぱり実際に設計施工の清水建設さんの力はものすごく大きくて、全然一人でやったなんて思いはしないですけど。しかもペローが現場に2ヶ月に1回くらい来て、ものをみて、いいものをつくれよって言われながらやっていました。そんな中で、やればこういうものができるんだっていう、僕も貴重な経験でした。
平沼:
大阪の梅田の阪急前って、梅田の一等地なんですよ。たぶん一番坪単価が高い場所で、周辺の建物がどういうものかって、とても重要なんです。空地っていうのが、周辺にこの辺ではつくれないはずなのに、内部空間にこういう箱をつくって、状況って言うのかな、状況の変化をちゃんと踏まえているっていうのが、すごく魅力的だなと思って見させてもらっていました。
芦澤:
僕はちょっとだけ気になるのが、ここの入り方があんまり、何ていうかスムーズじゃないというか。ボイドをつくって、都市に対して開く場所をつくるということであれば、もうちょっとこう開き方があるんじゃないかなというのが正直なところあります。その辺はどうですか?
この後出てくる前田さんの作品と比べると、わりと外と内のはっきりとした境界が決まっていますよね、それはこう、事業者側やオーナー側の要求なんかもあって、色々しがらみとかもあったんでしょうけど、もし何かそのへんであれば。
前田:
そうですね。もしこれを解体して、どこかやらしてもらえるっていうのであれば・・・まぁそれは不可能なんですけど、地下の部分で、地下街との接合口がもう決まってたんですけど、そこをもっといじっていれば可能性があったかもしれません。建物を建てたときに、人のルートが地下の暗いところを通ってここに出てくるっていうことだったので、ここがもし開けて、地下から三角形のボリュームだけ残して全方位的に入って来れるような場所がつくれたら、すごいなぁと思いますね。
芦澤:
なるほど。

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