平沼:
では、質問を再開しましょう。建築と植物の関係について、どんなふうに考えていますか?
松本:
建築にとっての他人性みたいなものとして植物のことを考えていることが多いと思います。
平沼:
一度、芦澤さんに聞いてみたかったんですが、芦澤さんの事務所では屋上で緑化をされていて、たくさん植物があるのですが、どういう風に考えられているのでしょうか?
芦澤:
基本的に他人の気持ちが分からないけれど、比較的理解できる対象として、植物とか、動物とか、動物は飼っていないんですが、そういうものと自分がある種、同化していたい。もちろん同化はできなくて違うんだけど、根本的には一緒だという根底を持ちたい。
平沼:
なるほど。これは何ですか?
木村:
これは、今計画している住宅の一部の、1/1模型です。これもそうですね。
僕も植物については他者性の話と、あと造園家でジャン・ヌーヴェルの造園をやっているジル・クレマンという方がいるんですけど、その人がやっている庭自体が動くという話にすごく感じるところがあります。僕たちは仕事としてかたちに落としてしまうところがあるかと思うんですけど、ジル・クレマンの仕事では、植物が動き、かたちが変わる、それを許容するというところが面白いなと感じ、そこには他人としてそのことを認めるということがあるのだと思っています。
松本:
これは計画中の建物で、実施設計が終わったぐらいのプロジェクトです。
大阪市の南の方に計画している、アトリエ、ギャラリー、イベントスペース兼住宅のようなものです。計画地周辺には小さなギャラリーや工房があって、大きな池を中心とした音楽祭が毎年開催されているような、結構にぎやかなところです。地域のポテンシャルはあるんですが、日常的にはあまり発揮できていない、ネットワーク化されていない地域です。クライアントさんの地元なんですが、クライアントさんは兼業アーティストで、ギャラリー、アトリエ兼住宅を計画していました。それでこの住宅というのは、最初はささやかな住宅にアトリエとギャラリーがちょっと付いているという計画だったんですが、クライアントさん2人とこちら2人、計4人で、長い時間をかけて話したり、色々なものを見に行ったりするうちに、住宅とは呼べないものになっていったという経緯があります。クライアントさんの希望として人が集まるということがあって、それを中心に建物のプログラムや計画の設計を4人で進めました。結果的に、街に住む、街への参加にウエイトを置いたかたちになりました。そのことは今回の計画にとって、とても大きな意味があります。街への繋がり方で大事だったことは、建物がオープンで人が集まりやすい場所だということでした。
建物の説明なんですが、各フロアには、それぞれ高さの低い塀と呼んでいる壁がありまして、オープンさや集まりやすさを考えたときに、高さの低い塀に囲われた場所というのは、安心感と開放感が同時に得られるのではないかと思いました。塀で場所を規定しながら、どこかで拡散していくような状態を考えました。
この建物は三階建てで、三層のフロアで構成されています。一階がアトリエ兼ギャラリーで、上に上がるほどプライベート性が高まっていくのですが、フロアごとの明確な区分はありません。階ごとの高さや軌跡の違いなどがその場所を特徴づけています。構造は鉄骨造で、75mm角の無垢の柱を使用しています。前の実寸の模型の写真に写っている柱型ですが、75mm角の柱が露出しているところです。この柱の細さが重要で、全体を強く規定する要素にならないように、木造の軽やかさと親密な感じを出すこと、なおかつ、鉄骨で大きな気積を作ることを実現しています。クライアントさんが場所をつくろうと思ったこと、そして私たちに頼んだこと、色んな人に繋がりが広がっていったこと、それらにふさわしいような場所にしようと、今つくっているところです。
平沼:
開口部の捉え方について2点疑問があって、縦格子の考え方と、開口の配置計画については何か考えがありますか?
松本:
開口の開け方については、格子の入っていない下の箇所は透明のFIX窓で、枠が入っていないんです。内部や外部から見たとき、実際にはガラスが入っているので遮断されていますが、上部に格子があることによってほぼ何もなくて、格子がそのまま内に繋がっていたり外に繋がっていたりする効果があります。街の中に住んでいるときの開放性について考えてみたとき、ガラス張りの開放性と、コートテラス的な開放性があるかと思うのですが、内部から考えられた開放性ではなくて、開放性を知覚する主体を外部に置くということを考えられないかなと思いました。だから外から見たときに、非常に開放的だという状態を作りたいと考えました。なので、塀がそのまま中まで続いている状態にすることで、外から中に飛び越えることができそうな状態をつくっています。
芦澤:
基盤的なものは塀だということですが、外部的に見ると、普通は塀は外にあるものなのに、建築の壁面と同化していて、その境域の考え方、見え方が曖昧になるということですね。
木村:
そうですね、全く閾を設定しないと閾があるのかも分からない。低い塀を設けることで、そこに閾値ということが発生することになりますね。
芦澤:
塀の高さはいくつですか?
木村:
フロアによって違います。一階は1,000mmくらい、二階は750mmですね。三階は1,000mmよりちょっと低いです。
芦澤:
それはどういうルールで設定したんですか?
木村:
周辺の建物が二層の建物が多くて、周りの建物のモデルをつくってシミュレーションをしたんですけど、一階は周辺の道路にある標識や街路樹や自動車が入ってしまうような大きな気積があるんですけど、二階に上がると、その気積をかせいだ分、中途半端な位置にフロアがきて、それは三階に行くアクセスを考えてぐっと抑えているので、二階だけど屋根裏みたいな。そのときに周りへの建物の関係で高さ設定をしています。
芦澤:
現場はいつから?
木村:
来年ぐらいからです。
芦澤:
一見すると分かりにくいのですが、腰壁がまわっていて、その周りに植栽があるという状態が、ぱっと見は普通のもののように見えてしまいます。お話を聞いていると、そういう論理なんだって分かるんですが、その論理性がどこまで表現できているのか、外構の操作の仕方でやりようがあるのかと思うのですが。すごくベタな話なんですが、例えばのアイデアですが、巨大な側溝があるだとか、あそこに庭を作ってしまうんではなくて、ため池が側溝で、それが都市の側溝をもうちょっといらったものになっている。普通の庭をつくってしまうと、いわゆるオープンな外構をつくりました、と普通のものをつくったように見えてしまうんではないかと思います。
木村:
外構はまだ決まっていないです。クライアントさんと一緒に作ります。側溝のことも相談してみます(笑)。

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