芦澤:
課題を解くのではないとおっしゃっていたと思うんですが、結構課題を解いているように感じました。繋がっているということでもなく、独立しているということでもなく、今までは二極でプライバシー、あるいはコミュニティのどちらかに片寄ったプランニングが多かったですよね。その曖昧さがどちらとも取れない感じを狙っていると感じたんですが、どうでしょう?
松本:
こういうものが良いなって思うことが、先ほど木村が言ったように常にあるんですね。それを一から実現しようとすると、スタディではなかったという話だと思うんです。たまたま発見したものの欠片をぐっと伸ばすというプロセスが近いと思います。
芦澤:
もう一点質問いいですか?何でこの屋根のかたちなんですか?
木村:
すごく現実的な話で、風致ですね。
芦澤:
なるほど。ディテールの話になるんですが、天井高は変えてもいいのかなって思ったんですが。断面を見ると、あえてフラットだったんですが、それは何か意図があるのでしょうか?
木村:
タイトルが「3人のためのアトリエと住宅」というので、アトリエが主ではなく、住宅が主でもないものが良いなと思って、例えば高低差を作ることによって、階層性が生まれてくるので、そういう状況を極力避けていたのだと思います。
松本:
と思ってやっていたんですけど、様々な方からも屋根に関しては色々言われていまして、現段階ではスタディということで、実施の際には形状は変化させる可能性はあります。
木村:
次の作品の紹介にうつります。これは「つつじ」という住宅です。敷地は福岡にあるんですけど、小高い山の斜面を造成した地域で、よく似たかたちの小さい企画住宅がたくさん並んでいる地域に建てられた建物です。この白い方行屋根の建物が、僕たちが設計したものです。
これは何の写真かというと、この区画概要が出来たときこの周りにはまだ雑木林が残っていて、何か計画の境界の曖昧な、雑然とした箇所があって、その感じがすごくいいなと思って、自分たちが依頼された建物を街区割りされた敷地のなかに建てるのではなくて、この場所で繋がっていることを考えながら設計することはできないかなと考えました。
これは「グリとグラ」という絵本の一枚なんですけど、小屋があって洗濯物があって木が生えて、キャベツがあって梯子があって、これらのどれもが特に主役というわけではなく、いい加減で適当なんですけど、その状態が何か良いなと感じました。そこでやったのが、7m×7mの建物を、周りの敷地境界線や周りの建物からからほんのちょっとずらす。そしてずらしておきながら、中の壁は街区割りに沿う。外部は周辺の建物や街区割りからずれているが、中は街区割りに沿っているという二重のずれをつくりました。その中で、置かれている家具が、普通は建物の外壁に沿った形で部屋が作られるので、それに沿って家具が配置されるんですけど、これは外壁からすると中の家具はイレギュラーな存在なんです。でも外から見ると、家具の配置は周りの建物とはレギュラー、正対したものになっています。でも、さっきのグリとグラのキャベツのように、外に配置された室外機やバケツなどと家の中に配置されたものとが正対関係を結ぶ時に、もの同士の関連、それらの外と中の曖昧さと、ものを基準としたランドスケープの中に住まうような状態が出来てくるんではないかと考えていました。
これが完成した建物です。これが建物の中です。二階は方行屋根がそのまま出てきています。一階は周りのものと正対関係を結んでいるとともに、中は四角いボックスがそれを担っているという状態です。これは隣の建物です。これは隣の外壁に自分の建物の影が映り込んでいる写真なんですが、よく見るとパースが歪んでいる。カメラと隣の壁は正対関係なんですけど、周りの壁が少しだけずれているので、こういうことが家のそこら中に起こっています。一戸の建物を作るというのではなく、周りを歩いてみて気づいた状態など、周りも自分たちが作るフィールドなんだということや、ひとつの建物を計画するよりも、もっと大きいことを計画することによって、最初に言っていた公共性というのに少しでも触れることができる、こういうことをやりたいと思います。
(休憩)

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