平沼:
では、作品を見てみましょうか。
木村:
これは、「三人の作家のためのアトリエと住宅」という建物です。2008年頃から京都に計画していて、まだ建ってはいないんですけど。クライアントさんが生け花作家と陶芸作家と縫製作家と猫という家族構成で、全員が60歳以上というご家族で、それぞれが作家です。その作家である3人が、創作活動に専念できるものと、家族として一緒に過ごす住まいが一緒になったものが欲しいということで依頼がきて、アトリエの独立性、家族との繋がりということを考えました。
敷地は60年代に分譲開発された住宅地で、割とゆったりとした区画割りを持っていて、当時の木が50年くらい経って生い茂っています。閑静なとても良い住宅街になっています。これが街並みの光景です。これは断面模型の写真です。これだけだと、一体何なのか分からないのかと思うのですが、僕たちは設計をするにあたって、建物の配置にとても注意して、周りの持っている伸びやかさをいかに引き継ぐかということをすごく考えました。敷地境界線から等間隔でセットバックして木のための空地をつくり、それがアプローチとして玄関に続くというエントランスです。それが、家のもっているドア、つまりそれぞれの作家のためのドア3つと家族のためのドアひとつ、計4つがファサードの四面に対して、長方形のそれぞれの面にひとつずつドアがついているというボリュームをまず想定しました。それに加えて、要求されていたものを満たすためには平屋でできることは分かっていたので、平屋で考えていきました。計画しているプランでは、左上が陶芸作家のアトリエ、左の細長い部屋が縫製作家のアトリエ、右下から上に2個目の部屋が生け花作家のアトリエになっています。それぞれにちょっとずつ距離を置き、その間に居住スペースを置いていくというかたちになっています。そうすると、廊下のない、部屋同士が繋がっていく構成が生まれてきます。同時に繋がりということを考えていて、視線的に繋がるのは難しいなと思い、何か繋がりがないか考えたところ、部屋を分節している壁を操作することによって、視線だけではない別の繋がりを生み出せないかなと思いました。実際に僕たちがやったのは、壁をずらすという操作です。今見ていただいている画像は、先ほどの居室の上にある壁なんですが、これが大体2mくらいの高さの壁なんです、その上に2mくらいの壁が天井から下がっていて、それが重なったものが次のこの状態です。こういうかたちになっていることで、ある部屋にまたがっているボリュームが、隣の部屋で横たわっていたり、あるいは、ある部屋のボリュームが引き込まれていくことによって、ひとつの部屋では広がっていくのに対して、ある部屋では狭まっている、といったことが建物全体で起こっています。そのことによって、すごく壁の多い、純粋なワンルーム形式の建物なんですが、空気は繋がっていて、その空気の中を、声や風が通り抜けるということです。
断面はこんな感じです。色んなところで切ると色んな断面図が現れます。
これが、陶芸作家のアトリエの様子です。壁にまたがって開口があることによって、ひとつの開口でどちらの部屋にも光を与えています。これは陶芸アトリエをもう少し引いてみたところです。先ほどの窓から入ってくる光が、奥の方では白く光っていて、手前は垂れ壁のなかには開口がないので光が入ってこず、ひとつの部屋のなかで明暗がはっきりと分かれるようになっています。
これが色んな部屋の状態です。右下の本棚のある部屋は図書室なんですが、建物のほぼ中央部分にあるので、無窓室なんですけど、隣の部屋の上の壁がこちらにぐいっと貫入してくることによって、窓がないはずなのに、窓が生まれているという状態です。
これは模型の屋根を取ったところです。これで僕たちがやりたかったことは上と下がずれていて、空気が繋がっていてワンルームであるという形式を作りたかったのではなく、むしろ独立性と繋がりを問題として考えて解くということはしてなかったと思います。解くっていうと与えられた課題に対して最適解を出すということになってしまうんですが、僕たちは建築の中に最適解を与えるということにあまり意味を感じていなくて、そんなものは無数にあるので、独立していることと繋がっていること、どっちつかずなものをつくっているのではないだろうかと思いました。 
平沼:
それは抽象化を目指すのではなく、別次元のものを考えているということですかね?
木村:
そうですね、一回できあがったものを、独立している・繋がっていることが満たされているのか、という判断基準を採点するのではなく、独立もしていて繋がっているこの中途半端な状況を、見方をひっくり返してみて、むしろその中途半端さが良いのではないのか。中途半端ということは未満である。未満ならば、その先があるということを徹底して計画していくんですが、徹底してやっていった先に、余地や空白が生まれればいいなと考えていました。

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