芦澤:素晴らしいですね。
田根:僕もお施主さんと一緒に嬉しいねと言っていました。逆に白い家よりもこういう落ち着いた家の方が等々力の森に非常に合っていて、良い感じになったと思います。
平沼:出世作がエストニアじゃないですか。でもこの等々力の家が藤本調に言うと名作ですね。
一同:ははは。
平沼:彼はここで名作を紹介しますというのをいつも言うんですけど、彼のよりも名作でよく出来ていますよね。
芦澤:下が湿地帯で上は乾燥地帯という渓谷から読み取られた解釈をなされていると思うんですけれども、最初のアンビバレントな関係がすごく面白いなあと思って聞いていました。最後にできているものはミックスされていますよね。
田根:下にいると本当に周りの環境が非常にダイレクトに入ってきます。爽やかな朝日が入ってきて、だんだん日中の光が入り上から光が降りてきて西側に来ると。太陽が動いているように思いきや、実は地球が自転しているというのをすごく感じる。それにすごく喜んでいたらお施主さんが、実は夜が一番良いんですよと。夜電気を消すと、月の明かりによって森が家の中に入ってくるようですごく良いと言ってくれたのを聞いたので、ちょっと泊まって見てみたいなと。それで2階に行くと逆に別荘に行ったように、すごく包まれた落ち着いた空間になっている。たった1層によって環境ががらっと変わるのは印象的でしたね。
平沼:植栽も田根さんが設計されたんですか?
田根:お施主さんが植物をやっている方で、この風景に合わせて左側に湿地帯のウェットなもの、西側にドライな植物を植えたりと、非常に上手く建築に合わせてやって下さいましたね。
平沼:この窓の先の風景がたまらないですよね。
田根:そうですね、寝ながら木に包まれているというのは良いですよね。最後のプロジェクトですが今年、ミラノサローネで、UNIONという大阪のドアハンドルの有名なメーカーなんですが、そこの展示をやりませんかという話を頂いてやりました。ちょうど60周年ということもあって、ユニオンの今までの歴史も踏まえて、これからユニオンがどういったことをやっていこうかということを考えながら出来ないかという話だったんです。とはいえ、自分もサローネは3度ほど参加していて、インスタレーションのような空間的な体験をやったんですが、初めて「もの」を扱わなければいけないということ。ハンドルは安直だといっぱい吊るしたりとか、扉がいっぱい作って開かせていたりとか、それくらいしか全然アイデアが出てこなくて、これはまずいと。。。とは言え展示をやってみようということになりました。サローネの中ではフォーリサローネという、街中のいろいろな空いたスペースを使って展示をするということがミラノでは行われているんです。街中に本当にいろんな人や家族連れも溢れ、デザインに触れていくという非常に僕は大好きなものなんですが、その中でユニオンを少しずつ分解しながら、考えていこうという時に、ものづくりの原点であったハンドルを作るという鋳造の仕組みに砂型というのがあると聞きました。その砂型というのは、砂を詰めて鋳物をして出来上がると砂をボンと床に投げたらさっと壊れた、砂の中からハンドルが発掘されるみたいな感じの製法で非常に面白いと。1つのハンドルを、海外から例えば3Dでデザインをしたら、データさえ受け取ればハンドルを発注できるというこれからの時代に対して、量を作らずに、1つのクオリティで1つのハンドルを作るというのは非常に面白いのではないかと。会場の中にこのようなスペースがあったので1つは60年の考古学的な砂型、またはハンドルを作ること。またハンドルのデザインとは何かということを知ってもらえるような、60のものが置いてあるスペース。
もう1つはここで実際にハンドルを作ってしまおうというかなり無茶苦茶な、サローネは新作商品の発表の場なんですが、ここで実際に作るというデモンストレーションというよりも、ハンドル研究所のような、未来のハンドルを考えるような場を作りたいなと思ってやりました。ハンドルを作るために必要な鍵のパーツや、もはやハンドルとも見えないようなものであったり、村野藤吾さんのハンドルなど建築家のデザインが見られるものを展示しました。
平沼:これは現存するんですか? |