田根:その中でこうした歴史的な文化近代産業遺産のレンガをどのように作っていくかというときに、例えば古いものに新しいものを加えて、新しさと古さの対比によって改築、改装する、あとは新しいデザインを施してデザインの力で古いものに対してクオリティを上げたりすると。それで僕は、そうではなく1回壊れそうだったもの、忘れそう、廃れそうだったものに対して、建築の生命を未来に引き延ばすようなこと、改築や増築とかそういうことではなくて、『延築』というか、時間を引き延ばしてそれが未来に残るようなことを考え、レンガでひたすら埋め尽くそうとしました。一方で、倉庫のままだとまずいなと思い、外観としては唯一老朽化したトタンの屋根を取り払い、ここは弘前のりんごが取れて日本で最初のシードルを生み出した酒造だというので、それにちなんだシードルルーフと呼んでいる金色の屋根ですが、チタンで菱葺きの屋根で覆うことによって本当に光によって風景が変わります。一方でレンガの壁面をどうやって耐震として補強したかというと、鉄骨でガチガチの骨を組むのではなくて、 PC 鋼線と言ってレンガの間に約32mmの穴を9 m真っ直ぐ掘り上げて、ここにコンクリートの基礎を打って間から挟み込み上から下まで緊張させる。レンガは柔らかいので地震があると揺れてしまうのですが、筋肉が固まるような緊張感を与えてレンガを保存しようと内側も外側からも無傷のままこのレンガが残せました。同時に普通ミュージアムだと、思う規定の代替寸法が決まっている大空間としてはなかなか倉庫を使って作れないので一部吹き抜けにして、赤いところが常設展だとしたら下のところで企画展が開かれたり、または全部を使って1つの大個展として展覧会をしたり、または冬場は非常に寒いのでその期間中に多くの人を呼ぶのがかなり厳しいだろうという時に、長期間アーティストに製作をここでしてもらい、春に向けて大きな展覧会の大々的な展示をしてもらうようなアートインレジデンスをやっていこうとかいうことをシンプルに混在できる構成にしています。外観と外構にもミュージアムロードと言ってレンガを敷き詰めた道ができました。

ここは公園の広場のちょうど中央に位置するので公園の中に佇んでいる風景があったり、右側のミュージアム棟と左側にはシードルも含め飲食できるようなカフェスペースがあったり、中はパブリックのスペースから階段を上っていくと2階には図書室があったり、展示室に入るとこのような壁と展示壁があったり、ミニマムの中で要求を満たすようなホワイトキューブの空間があったり、吹き抜けの大きな大空間もあります。4月オープンなので今現場がガンガン進んでいます。これは工事が始まる前の写真なんですが、すごく風情があって良い建築です。これは展示室の一部なんですが、壁がコールタールで塗りたくられています。これもそのまま残して、2階のライブラリーの空間は母屋組がはっきり見えています。これは一部屋根のチタンの右側サンプルと現場でなぜかお金が足りないからとガルバリウムが用意されました。

芦澤:よくありがちですね。ははは。

田根:早く決めてくれと言いながらこっちがおすすめです、これだけ減額できて予算収まりますよと。 チタンは非常に高いんですけれど、どうにかしてチタンにしたいと言い切って、こうしたチタンのシードルの色が本当に光によって変化し、夕陽を浴びるとオレンジに変わったりします。8月には全部屋根が出来上がってきます。

次は今京都で進行中の10 kyotoというプロジェクトです。京都というといわゆる誰もが知っている古い街ですね。奈良はずっと古代から変わらない街なんですが、京都は御所にしても街にしてもかなり高塗られている部分がありますが、時代と共に編成しながら戦争があったり火事が起きたり形を変えているという場所です。一方で京都の一条から逆に碁盤の目として見られますが、これは十条地区にある建物で、十条自体が実はまだ100年くらいしか経ってないんですね。実は平安京は一条から九条までで、十条自体は新しい町ですが、そこに文化施設を作ろうというプロジェクトです。最終的には一条の囲まれた森の中に佇む御所の在り方に対してシンプルに、十文字の建築の周りに緑があったので、このような十字型のピラミッドを作ろうという一見むちゃくちゃなアイデアから始まりました。中身はいろいろな文化施設としてフードやリビング、宿泊施設、またはいろんなギャラリー、そういったものを関連づけながらプログラムを各フロアにあてるのではなくそれぞれが関連するようなプロジェクトにしていくような、時間と空間で面積を組み上げていくということをこのプロジェクトでやっていこうとしています。平面を見ていただくと大きな1階からだんだんと十字型になるフロア構成です。立体的な空間と外観は先ほど展覧会でもあったようなピラミッドのようなものですね。京都で8〜10tくらい出る膨大な廃材の中から木材だけを引き出して、それを頑張って集成材にしてまとめていく。ものすごく膨大な量を集めて、今保管しながら技術的にこれをどうやって形にしていくかという研究をしています。 メーカーと取り組みながら実験をしていますが、外観は非常に大きなドンとした感じです。

芦澤:集成材というのはソリッドな木材をなるべくその形を活かしながらですか?

田根:そうですね。1本のままつけるというよりは4つに割って、割ったものを再構成して荒々しい形をくっつけていくことをやっています。オープンスペースがあったり、立体的に上に吹き抜け空間が繋がっていたりします。1番上の6階に十字型のギャラリー空間があったり、夜になると夕焼けの風景が見えます。

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